La moustache

口ひげを剃る男 (Modern & Classic)

口ひげを剃る男 (Modern & Classic)

『口ひげを剃る男』エマニュエル・カレール〈河出書房新社Modern&Classic〉読了
今年の読了本上半期で強烈だった一冊『嘘をついた男』*1のカレールの出世作

10年間、口ひげを生やしていた男。妻のアニエスが買い物に行った隙に、ひげを剃り落としてしまう。ところが、帰ってきた彼女は何も言わない。しかも、友人たちも無反応。アニエスが言うには、昔からひげなんて生やしていなかったと言う。これはエキセントリックな悪戯が好きな妻の仕業か? しかし、以前に撮った写真が消え、次には……

なんとも変な話。いや異様な話。
ひげを剃ったのに気づいてくれない。しかも、前から生えてなかったとさえ言う。何とも座り心地の悪い違和感。
もしや、妻は精神の病を負ってしまったのか? 確かに最初は主人公に肩入れしたくなるんだけど、まるで平行世界に滑り込んだかのように物事がシフト。さらに、主人公の方が誇大妄想的な存在にシフト。それにもかかわらず、本人は自分だけは正常だと思っている。ここまでくると、妻が精神病なのか? それとも陰謀が張り巡らされているのか? はたまた世界が没落して行ってるのか? そんなことはどうでもよくなってくる。
パリから香港に渡った彼は、向こう側とこちら側の狭間ような存在に(『黒い時計の旅』*2をちょっと思い出した)。
その狭間を突き破った、ラスト! ……をををををっ!! 
変な小説好きにはオススメ。


『冬の少年』はどうなんだろ? 文庫に落ちないかなぁ。