MEET ME IN THE MOON ROOM

月の部屋で会いましょう (創元海外SF叢書)

月の部屋で会いましょう (創元海外SF叢書)

『月の部屋で会いましょう』レイ・ヴクサヴィッチ〈創元海外SF叢書4〉

こうしてぼくたちは休暇を過こすために、だれもが常に巨大な金魚鉢を持ち歩かねばならない世界へテレポートする――不思議なバカンスの顛末(休暇旅行)、肌が宇宙服になって飛んでゆく奇病に引き裂かれる恋人たち(僕らが天王星に着くころ)、彼女の手編みセーターの中で迷子になる男(セーター)……不世出の天才作家による、とびきり奇妙だけれど優しく切ない33編の奇談集、待望の邦訳。2001年度フィリップ・K・ディック賞候補。


・「僕らが天王星に着くころ」
・「床屋のテーマ」
・「バンジョー抱えたビート族」
・「最終果実」
・「ふり」
・「母さんの小さな友だち」
・「彗星なし」
・「危険の存在」
・「ピンクの煙」
・「シーズン最終回」
・「セーター」
・「家庭療法」
・「息止めコンテスト」
・「派手なズボン」
・「冷蔵庫の中」
・「最高のプレゼント」
・「魚が伝えるメッセージ」
・「キャッチ」
・「指」
・「ジョイスふたたび」
・「ぼくの口ひげ」
・「俺たちは自転車を殺す」
・「休暇旅行」
・「大きな一歩」
・「正反対」
・「服役」
・「次善の策」
・「猛暑」
・「儀式」
・「排便」
・「宇宙の白人たち」
・「ささやき」
・「月の部屋で会いましょう」

『変愛小説集』*1でお会いしてから、短篇集出ないかと願い続けて幾星霜。


一時期、短いから自分で何とかならないかと原著*2を買ったほど。「床屋のテーマ」を訳してみたんだけど、自分の英語力のせいなのか、やっぱり変な話のせいなのか、それとも両方が原因なのか、とにかくまるで内容が掴めず。


それがとうとう明らかに! ……やっぱり、わけわからん話でしたわw


短篇集が出るのは本当に嬉しかったんだけど、はたと気づく。
同じような話ばかりで印象が薄れるのでは? 収録数からわかるように、一作が短いし。
その危惧は結構正しかった……
アンソロジーで出会った強烈さはないんだよなぁ。
面白かったのは確かなんだけど、こう題名を見返しても内容があまり思い出せない。
そんなわけで、半ば再読しながら感想を書くことに。


お気に入りは、
・「僕らが天王星に着くころ」「セーター」「ささやき」は既読。
「ささやき」はやっぱ怖いなぁ。


・「最終果実」
子供の時の友達だった少女は、今では頭から木を生やした巨大な肉の塊になっていた。
その木に何とかして登ろうと考えるが……
本書で、トップレベルの奇想力を放っているのがこれだと思ってる。
よく考えつくよなぁ。


・「ふり」
毎年、新しいしきたりを考えるグループ。
今年はくじで選ばれた人間を幽霊だと思い込むことにするが……
いじめっ子が復讐される話と読めなくもないけど、ラストは「ささやき」と似た怖さがある。


・「母さんの小さな友だち」
ナノマシンによって不老不死を目指す女性研究者。
しかし、ナノマシンたちは自身の世界の安寧のため、活発だった彼女をすっかり認知症のように作り変えてしまい……


・「彗星なし」
彗星が地球にぶつかると信じている男。
彼は、観測によってそれが変えられると考え、空を見ないように紙袋を被るが……
強迫観念的な展開の末に、『蝿男の恐怖』*3のショッキングなSF感が待っている。


・「ピンクの煙」
万引きが得意で、それが習慣になっている元彼女。
結局、彼女は刑務所に入ることになったが……


・「家庭療法」
殺虫剤、アイスピック、ペンチを用意して洗面所に立つ男。
おもむろに、鼻の穴に殺虫剤を噴射すると……
イヤ度ではこれが一番。『変身』*4の変奏曲なんだけど、どうしてこうなる?w


・「息止めコンテスト」
息止めコンテストの決勝は、貧相な女。
どこかで見覚えがある気もするが……
気づいたら『スキャナーズ*5みたいなことに!(大げさ)


・「冷蔵庫の中」
家に帰ると、妻が紙袋をかぶってソファに座っている。
その理由は?


・「俺たちは自転車を殺す」
遠未来(?)、自転車と一体化した自転車人間を狩る人類。
捕まえたら、ボルトカッターで切断するのだが、仲間の一人が……


・「次善の策」
元宇宙飛行士の遺体を盗んできたその恋人。
彼女は、サーカスの大砲を使って、彼を弔おうと考えているらしい……


・「猛暑」
家の向いを双眼鏡で覗くと、そこには美女がいる。
その声を聞いてみたいと思うが、彼女は何光年も彼方にいる異星人で……


乱暴に全体をまとめちゃうなら、「閉塞」を描いた作品が多い。
全身、特に顔をすっぽり覆われちゃう話が目立ち、なんらかのオブセッションを抱えているのかと思いたくなるほど。
さらに、そこからの解放が破壊的なんだよね。宇宙に飛んでっちゃったり、並行世界に行っちゃたり、現状からの逃避先が自由や幸せとは限らない。
掌編と言ってもいいような短い作品なのに、そのオープンエンドに無限の奈落を感じる。
笑っていいのか、ぞっとするべきなのか、その逡巡が向こう側に落ちる隙を与えてしまう。


また、女(というか妻)は理解できんな、という話も多いのは、作者の心情?w