SINGULARITY SKY

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)

『シンギュラリティ・スカイ』チャールズ・ストロス〈ハヤカワSF1567〉読了
カバーアートが、一昔前のハヤカワSFっぽくてイイ感じ。

ある日、新共和国の辺境惑星ロヒャルツ・ワールドに携帯電話が降り注ぐ。
そこから聞こえる「わたしたちを楽しませてくれますか?」の声に答え、物語を話すと、引き換えにどんな願いでも3つ叶えてくれた。
金も、食糧も、武器もあらゆるものが創り出され、19世紀封建主義的なロヒャルツ・ワールドはたちまち崩壊。
フェスティバルと呼ばれる何者かの仕業らしい。
新共和国皇帝はこれを侵略と見なし、艦隊を派遣する。
一方、彼らが因果律違反を起こさないように国連エージェントのレイチェルも乗り込んでいたが、封建主義的な彼らは、彼女の意見をまるで聞かない。
さらに地球からの技師として船に乗っていたマーティンも騒動に巻き込まれるが、彼にもある秘密が……
フェスティバルの正体と目的は?
マーティンとレイチェルの運命は?

ストロスの処女作。長篇は初訳。
後の作品にあるような騒々しさはまだ控えめだけど、
大量の情報、情報の制御は無意味・不可能、というテーマはすでに見られる。


シンギュラリティ(特異点)とは、ヴァーナー・ヴィンジが唱えている(S-Fマガジン 2005年 12月号)歴史的・文明的変換点のこと。
これを越えた世界は、今までの文明からはまるで連続性も、想像もつかない科学技術を擁している。
その技術はほとんどなんでもアリ。
シンギュラリティ以前と以降では、人間ははたしてどうなるのか?
作品は、21世中頃にエシャトンという神の如きAIが現れ、シンギュラリティを迎えていて、全てそれ以降の人間。
しかし、ロヒャルツ・ワールドはそれから200年、19世紀のような生活をしていたため、
それを目の当たりにした彼らは、どう変革を迫られていくのか?


SF! という読後感。
てっきり、なんでも叶えられる世界での混乱の話かと思ったら、
スペオペタイムパラドックス、ミリタリーSF、サイバーパンク、ナノテクSF*1、スパイもの……
をぎゅっと押し固めた感じ。
でも、詰め込み感とかはなく、かなりスムーズに一体化している。
秘密を抱えた主人公二人のロマンスと危機は展開は気になるし、
新米秘密警察官のドジっぷりに萌え(笑)、
前時代的な軍人たちの融通の利かない思考、
全てが変革してしまったロヒャルツ・ワールドの革命家たち、
人間ドラマもなかなか面白い。
子供になってしまった公爵の話をもうちょい読みたかったかな。
魔法の技術を目にしても、やはり生活は……と言うラストはけっこう好き。


年内に続編が出る予定だとか。


以前にも書いたけど、個人的には、ストロスは〈アッチェレランド〉シリーズがひじょうに好き。
絶対、文庫で出ると思ってたんだけどなぁ。
もしくは、また短篇を掲載して欲しいんですけど。
ただ、数年後に読んだら、寒いというか、意味不明の訳文なんだけどね。

*1:ブラッド・ミュージック (ハヤカワ文庫SF)』と『魔法使いがはじまる』を思い出した……