A CLOSED BOOK

閉じた本 (海外文学セレクション)

閉じた本 (海外文学セレクション)

『閉じた本』ギルバート・アデア東京創元社)読了。


ブッカー賞なども受賞している有名作家のポール。
彼は事故に会い、顔をひどく損傷し、目も失った。
彼は自伝的作品を書くために、秘書兼代筆者を雇う。
やって来たのはジョン・ライダーという男。
完璧とは言い難いが、人当たりも悪くないし、
気むずかしい彼に腹を立てることもなく、甲斐甲斐しく働いてくれる。
信頼が結ばれ、もはやジョンのいない生活も想像できなくなっていたが、
ネクタイが掛けてある順番が記憶と違っていたり、
代わりに取材に行ってもらったうのだが、自分の記憶と彼の語る言葉では微妙に変わっていたり、
聞かされるニュースも意外なものばかり。
自分は目だけでなく、記憶も衰えてのか?
そして、何か居心地の悪いものを感じ始める。
ジョン・ライダーは何者なのか?


文章は台詞と独白文しかないため、読者は盲人のポールの様子を追体験できる。
ジョンの容姿も何をしているのかもまるでわからず、ただ言葉だけが聞こえる。
これがかなり怖い。
ポールにとって、外の世界を形作っているのはジョンの言葉だけなのだ。
トラファルガー広場の4隅には3体の像があり、一つは空いているはずなのだが、
ジョンが取材に行ったところ、最近になって4体目が立ったという。
ポールはこれを信じるしかないわけで、
日本人読者としては3体しかなかったというのも知らないから、なおさらわからない。
ジョンの言っていることは本当なのか、嘘なのか……


本自体もそんなに長くない上、台詞しかないからすぐ読み終わる。
かといって、内容が薄いかというと、そうではなく、
最初から緊張しっぱなし。
これは映像化は無理とは言わないまでも、同じ緊張を与えるのは難しいだろうなぁ。
ラジオドラマが一番かな。


ラストも、「ああ、なるほど」と満足。
オススメ。


同じくアデアの『作者の死』を読もうと思ったけど、どこにしまったんだ?