死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

幻の特装本 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

幻の特装本 (ハヤカワ・ミステリ文庫)



古本がテーマのミステリ。
……今更書く必要もないか。
前から読みたかったんだけど、なんとなく伸ばし伸ばしでやっと読んだ。
けっこう厚めだけど、古本ネタだけに飽きずに読めた。


まー、取り敢えず簡単なあらすじ。
主人公ジーンウェイは腕利きの刑事であると同時に、物凄い古本通。
そんな彼のもとに古本の掘りだし屋が殺された事件が舞い込む。
どうやら彼は何か大きな山を見つけたらしいが……(『死の蔵書』)。
刑事を辞めて古本屋になっていたジーンウェイに、
昔の知り合いが保釈中に逃げた女を連れ戻して欲しいと頼む。
最初は断っていたが、ポーの『大鴉』の存在しないはずの特装本が絡んでいると聞き……(『幻の特装本』)


1巻の『死の蔵書』の方が面白かった。
『音の手がかり』のときもそうだったけど、こういう推理能力外の知識から推理するミステリは、やはり1巻が一番面白いな。
ここでは古本の知識。
それに、1巻は狭くも非常に深い古本の世界で、あまり町からも出ずに話が進んだから面白かったのに対して、
2巻ではかなり主人公が広い範囲を動き回るから、なんか普通の小説っぽくなっちゃたかな。
ミステリの仕掛けとしても、1巻の方が古本の世界とちゃんとかみ合ってたような気がする。


この二冊の話の要になるのが、掘り出し屋と特装本。
掘り出し屋ってのは、バザーなんかで古本を見つけては、古本屋に売りに行く人のこと。
日本の拾い屋が一番近いかもしれないけど、根本的に違うのは、
日本が日銭を稼ぐのに対して、アメリカは一攫千金を狙ってワゴンをあさり、その為にレア物の勉強をしているところ。
で、ちゃんと古本屋の方も、彼らが稀にレアものを持ってくることを知っていると言うこと。
日本じゃそういうことってないもんなー。
せいぜいが駅前の100円本屋に持っていくくらい。
掘り出し物を持ってくるかも、と期待している古本屋はあまりいないんじゃないかな。
少なくとも、俺(元古本屋店員)の経験じゃそういうことはなかったもんな。
でも、そういや、一人、週に2〜3回、朝イチで持って来るじいさんがいたな。
クズ本の中に売れそうなのが入ってるのも珍しくなくて、本人も珍しいってことをわかってた。
けっこうああ言う人はいるのかな。
関係ないけど、もう一人、しょっちゅう出たばかりのサブカルとかアート系の本を大量に持ってくるおっさんがいたな。
店の場所柄そういうのが売れる所だったからありがたかったけど、住所がうそ臭かったな(笑)
横道に逸れた。


さて、もう一つの特装本。
こちらは大昔の版権が切れてる作品なんかを、凄い装丁の限定本で出すこと。
それもまたコレクターズアイテムになってるわけだ。
日本でもあまりこういうのは聞かないね。
たいていは、版権持ってる出版社が豪華版を出すくらい。
それと、アメリカの出版でよくわからないのが、初版。
アン・ライスとかサラ・パレツキーの初版に凄いプレミアがついてるって話は日本では理解しにくい。
日本で言えば『姑穫鳥の夏』に数千円ついてるって感じなんだろうけど、
そもそも出版形態が違うから例えにならんな。
日本だと単行本から文庫って落ち方だけど、向こうはペーパーバックで売れた奴が、
限定ハードカバーとかで出たりすんだよな。
向こうは再版制度がないんだったっけ?
初版の初版だとか、○○版の初版だとか、よくわからん。


これと『古書店めぐりは夫婦で』シリーズを読めばアメリカの古本事情がだいたいわかる。
また、このシリーズには名言(笑)が多く、そのたびにほくそ笑んでいた。
お気に入りは、「上等のステーキといい本があったら、朝昼晩いつ訊かれても答は同じだ」みたいな台詞。素晴らしい(笑)。
もう一つは、「二人いるとそそのかしあって買うからますます泥沼」風な台詞。
古本ヲタクにとっては、フィリップ・マーロウ以上の名言多し。必読。