CASA DE CAMPO


別荘 (ロス・クラシコス)

別荘 (ロス・クラシコス)


『別荘』ホセ・ドノソ〈現代企画室〉

とある小国の経済を牛耳るベントゥーラ一族の人びとが毎夏を過ごす辺境の別荘。ある日、大人たちが全員ピクニックに出かけ、別荘には33人のいとこたちだけが取り残された。日常の秩序が失われた小世界で、子どもたちの企みと別荘をめぐる一族の暗い歴史が交錯し、やがて常軌を逸した出来事が巻きおこる……。チリの巨匠ホセ・ドノソの、『夜のみだらな鳥』と並ぶ代表作にして、二転、三転する狂気をはらんだ世界が読む者を眩惑する怪作、待望の邦訳!!

姿を消した大人たち! 迫る怪奇植物! 襲い来る食人族!(誇張あり)


『夜のみだらな鳥』*1よりも遥かに読みやすいんだけど、あの異次元空間は健在、というか、読みやすい分、その異形感は際立っている。


親と使用人、全ての大人がピクニックに出かけ、別荘に残された33人のいとこたち。
戒めを解かれ、好き勝手に振る舞い、日常は崩れ、混沌と化していく。


親たちは一日で帰ってくるというが、それは長い長い一日。
子供は33人もいるのだから、彼らの振る舞いを追うだけで、紙幅は費やされていく。いくらイベント目白押しでも、作者が一日の出来事と書いているのだから、それを疑う必要はない。
しかし、そのページ数という厳然たる物理現象が、子どもたちと大人たちの時間を大きく歪め、一日にしては長いなぁ、という疑問を現実のものにしてしまう。


「語り」によって世界を構築するマジック・リアリズムにおいて、作者という最強最悪の「語り手」が登場するのが本作の特徴で、彼の指先一つで時空間は思いのまま。これ以上の力技はなかなか無い。
ちょいちょい顔を出す作者は、突然ギョッとするようなこと書き、複数の物語世界のレイヤーを同時に幻視するような錯覚に陥る。


ブラックホールのような物語で、終盤に行くほど、その一日であるはずの時間は引き伸ばされていく……