THE GREAT FRUSTRATION

大いなる不満 (新潮クレスト・ブックス)

大いなる不満 (新潮クレスト・ブックス)

古代人のミイラに出会った科学者たちの悲喜劇。なぜか毎年繰り返される死者続出のピクニック。数多の美女と一人の醜男が王に仕える奇妙をハーレム。平均寿命1億分の4秒の微小生物に見る叡智――。現代アメリカ文学の新潮流をリードする若き鬼才による、プッシュカート賞受賞作2篇を含む11篇。

見た目も内容も、ハイブラウで、ちょっと手を出しづらい印象のある新潮クレスト・ブックスだけど、『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』*1前後から好みの作品が増え、特に今年に入ってからは全部(といっても3冊だけど)アタリ。


変な話好き要チェックのニューフェイス
実際、若い作家で1983年生まれ! 


現実的な舞台設定で、何かがずれた、グロテスクな認知が引き起こす事の顛末、というのはこの手の短編のパターンだけど、一人称が多いのと、異様なはずのキャラクターの行動原理に普遍性があって、彼ら(微生物であっても)に自らを重ねやすい。
ミイラ発見で浮かれる研究員たちだが、更に状態がいいものが見つかってなんだかしょんぼりする感じ。毎年死者が多く出るのにみんなが行くから参加してしまうピクニック。一族全てに不幸が訪れている男が、玄関を毎朝開けるときの恐怖。絶対に会えないとわかっていても、仲間のもとに向かおうとする微生物……


また、長くはない作品の中で、視点の変更によって、認識もがらりと変わってしまう作品も少なくない。所詮、人間なんて表面だけで判断してるし、目的のためには手段を簡単に正当化できてしまう。


収録作品
・「ロウカ発見」
雪山で見つかった古代のミイラ。
その発見に色めきだつ研究員たちは、興奮がそのまま生活にも伝播し、振る舞いも賑やかになっていく。
しかし、状態がいいミイラが更に見つかると、先のミイラのショボくれた見た目にテンションが落ちてしまう。


・「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」
毎年、謎の虐殺が行われるフロスト・マウンテン・ピクニック。
誰が、目的もわからないが、恒例の行事として毎年行ってしまう……


・「ハーレムでの生活」
王のハーレムに呼ばれた醜男。
王の要求は変なものばかりで……


・「格子縞の僕たち」
実験用の猿をカプセルに入れる末端の作業員。
上級作業員に馬鹿にされる毎日だが、その猿がなければ実験にならない。
そんなある日、猿がカプセルに入らず……


・「征服者の惨めさ」
黄金のために南米にやってきた征服者。
原住民を無残に殺していくが、その司令官は……


・「大いなる不満」
動物たちが争いなく暮らすエデンの園
しかし、ライオンはどうしてこんなに他の動物に噛みつきたい衝動が起きるのか、疑問に思う。


・「包囲戦」
包囲戦を強いられ、瀕死の街。
敵は決定的な攻勢を仕掛けてこず、延々と生きながらえていく……


・「フランス人」
小学生の頃、教師が書いた人種差別的な劇でフランス人を演じた少年。
彼は何故かハイテンションで、中心人物のようにみなされてしまう。
20年が経ち、それがバレやしないかと慄いているが……


・「諦めて死ね」
一族が皆不幸な目にあっている主人公。
次は自分の番では……


・「筆写僧の嘆き」
ベオウルフについて書くことになった筆写僧たち。
しかし、指導するために現れたのは芸人のような修道士で……


・「微小生物集――若き科学者のための新種生物案内」
既読。
あまりにも美しくて研究者は残らず魅了されてしまうドーソン。
観察されると変化してしまうエルドリッド。
一億分の四秒しか寿命のないケッセル……様々な微小生物が紹介されていく。


お気に入りは、
「ロウカ発見」「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」「大いなる不満」「包囲戦」「フランス人」「微小生物集――若き科学者のための新種生物案内」