GOD IS DEAD

神は死んだ (エクス・リブリス)

神は死んだ (エクス・リブリス)

「神の肉」を食べたために、知性が高度に発達した犬へのインタビューをはじめ、「神の不在」がもたらす「ねじれ」の諸相に、斬新な語りとポップな感性で切り込む。全米で話題騒然の新人による、異色の9篇を収めた連作短篇集。

エクス・リブリスとなめていたら、思いの外に、直球のアポカリプス系SF。
「神の不在」による混乱は、『アフター0』の「あの世の方程式」*1と似てる。ただ、この手のもので毎度日本人的に思うのが、「神の不在」が証明されただけで、こんなことになっちゃうのかなぁ、という感想。
作者がカトリック教徒の家で育った背景から、ここでいう神はキリスト教におけるそれを想定しているんだろうけど、作中では明示されない。キリスト教も、ヒンドゥー教も、イスラム教も区別なく、普遍的な存在として認識されているなら、確かに大混乱は起きるかもね。
この世界でも日本はいつもどおりだから描かれてないのかもしれないけど(笑)


・「神は死んだ」
紛争中のスーダンに、ディンカ族の女性の姿をとって現れた神。
神はパウエル国務長官の元を訪れ……


・「橋」
地方から大学へ新生活に向かう少女。
彼女が車を走らせていると、橋で異変が。
神父が自殺しようとしているのだ……


・「小春日和」
終末感により絶望と虚無が世界を覆う。
青年たちは銃口を向け合い、引き金を引く。


・「偽りの偶像」
世界は終わらなかった。
しかし、神の代わりに子供を崇拝する現象が蔓延。
それを治療するために派遣された精神科医
彼は必要不可欠の存在ながら、街の人々からは嫌悪の対象だった。


・「恩寵」
トラックを運転中、倒れている男を見つける。
しかし、近隣の人は無頓着で……


・「神を食べた犬へのインタビュー」
神の遺体を食べたため、全知の存在となった野良犬へのインタビュー。


・「救済のヘルメットと精霊の剣」
さらに未来。
世界は、進化心理学軍とポストモダン人類学軍に二分され、戦争を繰り広げていた。
ネット恋愛にハマる、島で平凡に暮らしているアーノルドだが、そこにも戦争の影は近づいていた。


・「僕の兄、殺人犯」
戦時中のアメリカ。
兄が殺人事件を犯し、世界中の注目の的になってしまう。


・「退却」
兵士となって8年、アーノルドは故郷目指して軍を離脱していた。
なんとかアメリカに戻るが、川岸に奇妙な看板が……


「偽りの偶像」「僕の兄、殺人犯」「退却」は現在とはまるで価値観が変わった世界を断片的に描き、かなり生理的嫌悪感が強い。特に、「退却」で描かれる戦争を終結させようとする方法は身勝手さもあり、おぞましい。
「小春日和」はわかりやすい終末で、お気に入り。平野耕太の「彼らの週末」に感触が近い。