THE WALKING DEAD : RISE OF THE GOVERNOR

ウォーキング・デッド  ガバナーの誕生 (角川文庫)

ウォーキング・デッド ガバナーの誕生 (角川文庫)

ウォーキング・デッド*1のスピンオフ小説。

突然、原因不明の状況でゾンビが大発生し、世界が地獄と化した。襲われた人間が次々と亡くなってはゾンビとなってよみがえり、何万、何十万、何百万とバケモノが増えていく。どうにか生きのびたフィリップら5人のグループは、救援センターがあるというアトランタめざして苦難の旅を続けるが……。原作コミックとテレビドラマが全世界で大ヒット中の〈ウォーキング・デッド〉小説版第1弾、ついに日本上陸!

アメコミ的にキャラクターが完全に独立してしまわない限り、スピンオフは本編を超えられないし(質的な意味ではなく)、同時にそこにつながるように配管も行わなければならない。
そのような縛りの中で、今作は最良の形に仕上がっていると思う。


そもそも、『ウォーキング・デッド』が閉園時間も出口もないテーマパークで、主人公たちはキャストではなく、そこの入園客。だから、登場人物に「特別な人」がいないんだよね。あえて言うなら運がいいくらい。ありがちな、やたらと特殊技能と知識を持った人間が集まった主人公チームや秘密組織が出てこない。それは、リックの正義感(?)も、総督の残虐性もオンリーワンではなく、他の地域でも同様の行動が取られていることを示している。
主人公たち以外に目を向け、生存者を探してみれば、彼らもそこに至るまでのサバイバルを繰り広げてきたはず。他と同様に何を捨て、失ってきたのか、推測できる。普遍的ゾンビ世界だからこそ、その様子はいくらでも描けるわけで、スピンオフ化するにはうってつけの作品だと思う。
その第一弾として、
ガバナーの前日譚を選ぶというのは、今後の水準として上手い。


日本版2巻のヴィジュアル的主人公がミショーンなら、崩壊した世界の精神的主人公が総督。
その彼は初めから怪物だったのか、それとも怪物になってしまったのか?
それを描いたのがこのスピンオフ小説。
これ単品でも、崩壊した世界で徐々に人間性も崩れていく、ゾンビサバイバルを堪能できるけど、やはり、コミックを読んでからの方が楽しめる。ペニーの末路は知ってるから、むしろ鬼畜な展開に安堵するし、そしてメインキャラの誰が総督になってしまうのか、そんな歪んだ楽しみ方ができるのも、スピンオフならでは。
特に総督への過程は、けっこう最後の方まで引っ張るので、どちらがなるの!? とスリリング(原作でちょろっと本名出てるけど)


ドラマ*2のスピンオフと捉えても矛盾ないけど、コミック版の読者にまずオススメ。