THE HARE WITH AMBER EYES

琥珀の眼の兎

琥珀の眼の兎

陶芸家のエドマンドは東京の大叔父の部屋で出会った264の美しい根付に魅了された。やがて根付を相続した彼は、その来歴を調べはじめる。根付を最初に手に入れたのは、彼の曾祖叔父だった。19世紀後半に日本から輸出された根付はマルセイユに上陸して、美術蒐集が趣味の曾祖叔父の手に渡った。根付たちは華やかなりし頃のパリでプルーストルノワールに愛でられ、その後、ウィーンの大富豪の親類の手に。だが、ナチスの魔の手が一族と根付に忍びよってくる―。根付の壮大な旅路を追いながら、エドマンドは一族の哀しい歴史を知る。全英を絶賛の渦に巻き込んだ傑作ノンフィクション。

ロスチャイルド家にも比肩するほどの、ユダヤ人富豪エフルッシ一族の興亡を描いたノンフィクション。


19世紀に始まり、根付と共に語られていく一族の歴史。
根付そのものはキャビネットにしまわれたままで、もっぱら、持ち主とその家族が語られていく。
このエフルッシ家というのは初耳だけど、特に最初の持ち主だったシャルルは芸術家のパトロンとして有名で、ルノワールプルーストの作品の中にその姿が見られるほど。


正直、期待と違って、前半はあまりはまらず。
ただ、後半、ナチスが台頭してくるとぐっと引き込まれる。
19世紀のパリと言われても、ほとんどフィクションと印象が変わらないんだけど、20世紀前半に入ると、それは事実と認識され始める。
また、我々はユダヤ人一族がナチスを前にしてどうなるかを知っており、同時に根付が現代にまで伝わっていることも知っているため、そこが非常にスリリング。


戦後、日本に戻ってくる終盤も、激動をくぐり抜けた末のエピローグとして、余韻を残して読み終える。
『古書の来歴』*1と一緒に読むのも悪くないかも。