THE QUEEN OF WHALE CAY

ネヴァーランドの女王 (新潮クレスト・ブックス)

ネヴァーランドの女王 (新潮クレスト・ブックス)

『最初の刑事』*1の作者による処女作。


石油会社の億万長者一族に生まれたメアリアン・“ジョー”・カーステアズ。オスカー・ワイルドの姪ドロシーに手ほどきを受けた男装のレズビアン。世界最速の女王として認められたモーターボート選手であり、後半生はカリブ海のホエール島を買い取り、女王として君臨した。マレーネ・ディートリッヒを始め、無数の女性と関係を持ちながら、彼女が生涯を共にし、誰よりも愛したのは、トッド・ウォドリー卿と名付けた革製の人形だった……


彼女を構成するすべてが、ご馳走の山盛りで胸焼けしそうなんだけど、これがノンフィクションなのだから食指が動くってもの。


生没年だけでも1900-1993と20世紀そのものなんだけど、彼女の人生の歩みがまるで20世紀を体現しているかのよう。石油の世紀の始まりに生を受け、女性が男性性を身につけなければならない戦場で輸送部隊に配属され、狂乱の20年代には、自分の性癖を隠すこともなく過ごし、モーターボートで活躍。しかし、真面目な30年に入ると男装は白眼視され、以降は南の島を我が家とする。


また、アンビバレントの塊のような人物でもある。男装のレズビアンは言うに及ばず、莫大な資産相続人でありながら、女性運転手の会社を起こし、客に仕えるのを楽しむ。母への愛憎、ボートに母の名前をつけるも、実は間違っていたことにしばらく気づかない。ホエール島を開梱し、地元の黒人に独立の気風を吹き込みながら、そこの女王として君臨。


そして、最も印象に残るのが、トッド・ウォドリー卿という人形。
レズビアンだから子どもは作れない代用としての人形でありながら、彼女自身は子どもは嫌いで、なのに男の子は可愛がる。トッドは永遠の少年で、ジョーがなりたかった存在の代理人
この、永遠普遍というのが彼女の理想。だから機械を愛し、当時は老化=女性性と考えられていたから男性性を望む。
しかし、彼女が老いてくると主従は逆転し、純情無垢だったトッドがジョーの代わりに遊び人となり、ジョーは自分のことを「それ」と表するようになったという。


ノンフィクションとして、作者自身の考えは表に出てこないからわからないけど、写真とか見るとジェンダーだったのかなぁ。また、「男になりたい」という言葉はよく出てくるけど、女の体が嫌だったのかはわからない。まぁ、ここまでマッチョだと、嫌だったのかもしれないけど。


また、脇役も強烈で、オスカー・ワイルドの姪ドロシーは、パリの頽廃を身に纏っているかのよう。彼女だけのノンフィクションが読みたいくらい。また、ジョーの母親イヴリンは写真だとおとなしそうなのに、常に男を変え、麻薬を常用した淫婦。


個人的には、お近づきになりたくないペルソナの持ち主だけど(笑)、圧倒的な不思議さを秘めた人生であることは間違いない。
歴史には名を残していないけど、20世紀の伝説のような人物。
ノンフィクションだけど、同時に、老いから逃げようとする、現代のファンタジーとも読める。
オススメ。