HYPERBOREAN GROTESQUES

ヒュペルボレオス極北神怪譚 (創元推理文庫)

ヒュペルボレオス極北神怪譚 (創元推理文庫)

予想外にアタリだった『ゾティーク幻妖怪異譚』*1につづくC・A・スミス短編集第2弾。

 収録作品
・「ヒュペルボレオスのムーサ」The Muse of Hyperborea
・「七つの呪い」The Seven Geases
・「アウースル・ウトックアンの不運」The Weird of Avoosl Wuthoqquan
・「アタムマウスの遺書」The Testament of Athammaus
・「白蛆の襲来」The Coming of the White Worm
・「土星への扉」The Door to Saturn
・「皓白の巫女」The White Sybil
・「氷の魔物」Ice-Demon
・「サタムプラ・ゼイロスの話」The Tale of Satampra Zeiros
・「三十九の飾帯盗み」The Theft of 39 Girdles
・「ウッボ=サトゥラ」Ubbo-Sathla
・「最後の呪文」The Last Incantation
・「マリュグリスの死」The Death of Malygris
・「二重の影」The Double Shadow
・「スファノモエーへの旅」The Voyage to Sfanomoe
・「アトランティスの美酒」A Vintage from Atlantis
・「始原の都市」The Primal City
・「月への供物」An Offering to the Moon
・「地図にない島」The Uncharted Isle
・「歌う炎の都市」The City of Singing Flame
・「マルネアンでの一夜」A Night in Malneant
・「サダストル」Sadastor
・「柳のある山水画」The Willow Landscape

ヒュペルボレオスって聞いたことないのに、なんか郷愁を誘うかと思ったら、ハイパーボリアのことでしたか。いつものアレのため(笑)の表記なんだけど、今回に限っては雰囲気あって、いい効果をあげているなぁ。


ティークものとの差異を聞かれると難しいんだけど、ゾティークがホラーやファンタジイらしさが強い一方、ヒュペルボレオスの方が神の存在に近く、より神話っぽいかな。またゾティークに独特のオリエンタリズムがあるのに対して、こちらはヨーロッパの土地を感じさせる(ような気がする)。
ややもすれば安っぽいスペースオペラを想起させるようなガジェットを使いながら、今までに知られていなかった独特の神話を創造することに成功している。神話に矛盾はつきものなんだから、散りばめられた記述から前後を考えるのは読者に残して、短篇集として無理に年代順に並べることにこだわらなくてもよかったような。そもそも、『エイボンの書』のように何度も翻訳を繰り返してきているんだから、意味が通じない部分があるのは当然なんじゃないの?(笑)


クトゥルフものはほとんど読んでないんだけど、怪物とか魔道書だけは好きなんで、ツァトッグアとかヘビ人間の登場に嬉しくなって、10年ぶりくらいに『クトゥルフモンスターガイド(2)』*2を掘り出してしまいましたよ(笑)
原典読むと、異形の神々に対する解釈で、後の善悪的な対立の構図はいかに安っぽいものかがわかった。神話としてそんな人間臭い観念があるとは思えないし、何よりスミスはあまり深く考えてないよね?


ちなみに、「ヒュペルボレオスのムーサ」から「ウッボ=サトゥラ」までがヒュペルボレオス、「最後の呪文」から「アトランティスの美酒」までがアトランティス、「始原の都市」以降が幻想短篇。
ヒュペルボレオスが神(のような存在)を前に破滅する人間を描いているのならば、アトランティスは人間に知識や技術の限界を描いているような印象。


お気に入りは、「七つの呪い」「土星への扉」「氷の魔物」「マリュグリスの死」「二重の影」「柳のある山水画」あたり。特に「柳のある山水画」は他の作品とは毛色が違った幻想譚で、必ずと言っていいほど短編集に入っているのも納得。


次は『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』だとか。ハワードの短編集とかも出して欲しいなぁ。