DOCTOR RAT

ドクター・ラット (ストレンジ・フィクション)

ドクター・ラット (ストレンジ・フィクション)

『ドクター・ラット』ウィリアム・コツウィンクル〈河出書房新社 ストレンジ・フィクション〉

ある日、地球上のありとあらゆる動物たちが、何かに導かれるかのように不思議な行いをとりはじめる。家を離れた飼犬たちはどこへ向かっているかもわからぬまま走り出し、海じゅうの鯨たちは恍惚と踊り、ゲージのなかの雌鶏や機械に吊された雄牛、食肉工場の雄豚までもが、つかのま希望の幻影を見る。人間には聞こえない〈呼びかけ〉のもと、動物たちは本能のままに、ひとつに結ばれようとしていた――大学の実験室で去勢され、臓器を抜かれ、残酷な実験の末に気が狂い、人間レベルの知性を持ってしまった鼠「ドクター・ラット」ただ一匹を除いて。1976年に発表され、センセーションを起こして以来、長らく翻訳が待たれてきた、グロテスクで美しい幻の寓話がついに登場! すべてが動物たちの一人称で語られる、超問題作。世界幻想文学大賞受賞。

どの動物も語りが基本的に一緒なので、「動物の一人称」に面白みがちょっと薄いけど、彼らの目線はひじょうにグロテスク。
養鶏場の雌鳥や食肉工場の豚が夢見る楽園が悲惨すぎて笑うしかない。メインの舞台になる研究所の描写はさらに残酷で、もはやスラップスティックコメディ。猫にゃん犬ちゃん好きは読まない方がいいかも。
人間はけっして一人ではないけれど、やはり一人が大好きという皮肉が招くラスト、そして、唯一人間側に着いたドクター・ラットの末路ももの寂しい。