VAMPIRES IN THE LEMON GROVE

レモン畑の吸血鬼

レモン畑の吸血鬼

『レモン畑の吸血鬼』カレン・ラッセル〈河出書房新社〉読了

熟年吸血鬼夫婦の倦怠期、馬に転生した歴代大統領、お国のために蚕に変えられた女工たち…現代アメリカ文学最前線の女性作家、待望の第二短編集!最高の想像力で描く、最高に切ない8つのトワイライト・ゾーン

「レモン畑の吸血鬼」
「お国のための糸繰り」
「一九七九年、カモメ軍団、ストロング・ビーチを襲う」
「証明」
「任期終わりの廏」
「ダグバート・シャックルトンの南極観戦注意事項」
「帰還兵」
「エリック・ミューティスの墓なし人形」

変な話好きとしては、無視できないカレン・ラッセルの最新短編集。


解説でも、本文中にも何度かズバリ「トワイライトゾーン」という言葉が出てくる。
これは、吸血鬼がレモン畑にいたり、女工が生糸を吐く物語、という意味での「トワイライトゾーン」ではない。


ほぼすべての作品に共通しているのが、主人公が何か(物理的/精神的)に束縛されて、身動きできなくなっているということ。
その彼/彼女たちが、トワイライトゾーンへと向かっていく。
しかし、それは陥穽にはまり込んだ破滅ではなく、むしろそこからの脱却。時間にも空間にも支配されないトワイライトゾーンを選択することが、彼らが自由になれる方法。


わかりやすいのは、グロテスクさでも強烈な印象を残す「お国のための糸繰り」。
蚕のような怪物になってしまった女工たちが繭と化してしまうのは、大局的になんの解決にもなってないし、彼女たちの未来もない。
でも、「繭」という空間に篭もることは、小さな幸福、一瞬の平穏にすぎないかもしれないけど、何者にも邪魔できない自由は、大きな勝利なのだ。
「帰還兵」と「エリック・ミューティスの墓なし人形」は、避難所としてのトワイライトゾーンを描いた作品として、ひじょうにパワフル。
改めて思い返すと、唯一の翻訳長編『スワンプランディア!』*1トワイライトゾーンに、平穏を求める物語だったね。


でも、一番の気に入りは、あまりに馬鹿馬鹿しい「ダグバート・シャックルトンの南極観戦注意事項」
クジラ対オキアミの観戦ってなんだよw