独白するユニバーサル横メルカトル

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

「拷問あるよ」と勧められたので着手。
いい友人を持ったものです(笑)


「C10H14N2(ニコチン)と少年―乞食と老婆」
たろうはとてもいい子。しかし、いじめっ子に目をつけられ、その対象になってしまう。つらい日々が続くが、ある日、家の裏の湖に住み着いていた浮浪者の老人と知り合いになり……
個人的には、これが一番きつかったなぁ。やはり、精神的にえぐるのが一番しんどい。
たろうも結局、町の人間にすぎないとわかるラストは本当にグロテスク。
1週間読んだ友成純一作品よりも、これの方が確実に鬱になる。


「Ωの聖餐」
下っ端ヤクザが世話することになったのは、400キロ以上はあるかという肥満体の男。組で始末した死体を彼が食べているのだ。ある日、彼が天才的な頭脳を持っていることを知る。その理由は?
これもなかなかよかった。ある種のミュータントもの。結末の後のことも想像しちゃうなぁ。


「無垢の祈り」
義父に毎日暴力を受け、母は新興宗教にはまり、学校でもいじめられている少女。彼女の住む町で、連続猟奇殺人が起こる。彼女は、自分の現状を破壊してもらおうと、犯行現場に犯人へのメッセージを残すが……
これはちょっと毛色が違うかな。鬱エンディングを求めていたのか、ハッピーエンドを求めていたのか、自分でもわからない(笑)


「オペラントの肖像
ありとあらゆることに条件付けがなされている未来。そこでは、条件付けを無効化してしまうため芸術は禁止されていた。禁を犯した者の家族も処罰の対象になるのだが、あるオペラント官はその娘を愛するようになってしまい……


「卵男」
逮捕された連続殺人鬼。死刑を待つだけだが、彼は全ての死体の場所を話したわけではなかった。彼は、隣にいる囚人は自分から情報を引き出すためのアンドロイドではないかと考え始め……


「すさまじき熱帯」
長年会っていなかった父親が、儲け話があると誘ってきた。熱帯の某国に組織を裏切って、自分の王国を作っている男がいて、彼を殺せば一億はいるというのだが。
某国の言葉の表現がひじょうに暑苦しく、気持ち悪くて、読んでいて熱気にのぼせそう。


「独白するユニバーサル横メルカトル」
使い込まれた地図帳。彼は自分を愛用してくれたタクシー運転手と、彼の息子について独白する。
表題にも使われている、何とも魅力的な題名なんだけど、全くそのとおりの内容。
非生物にも独自の世界があるストーリーは珍しくないけど、戯画化されることもなく、地図がそのまんま地図とは!
途中に挟まる悲恋も素晴らしい(地図的に)


「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」
数字の強迫観念に取り憑かれている拷問のプロ。彼はいつも夢の中の別荘に安らぎを求めていた。いつものように仕事に向かうと、今回の相手はひどく醜い女。しかも、自分から望んできたという。さらに彼の夢の内容を知っているようなそぶりを……
鼻系はちょっと苦手。


異色・奇想系好きとしては、大変満足できる短篇集。
お気に入りは、「C10H14N2(ニコチン)と少年―乞食と老婆」「Ωの聖餐」「独白するユニバーサル横メルカトル」あたり。