ロルドの恐怖劇場

ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)

ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)

『ロルドの恐怖劇場』アンドレ・ドロルド〈ちくま文庫

いたるところから恐怖は我々を狙っている。殺人と処刑の場面を再現した蝋人形館での一夜、屋敷を取り囲む血に飢えた暴徒の群れ、手術台の上の惨劇、抉り取られた眼球、妻に裏切られた男の恐るべき復讐…20世紀初頭のパリで絶大な人気を博した恐怖演劇グラン・ギニョル座の劇作家ロルドが血と悪夢で紡ぎあげた22篇の悲鳴で終わる物語。甘美な戦慄と残虐への郷愁に満ちた“恐怖劇場”開幕。

『グラン=ギニョル傑作選』*1『怪奇文学大山脈〈III〉』*2を既読な上、現代の実話系怪談に通じる話が多いので、見たことあるようなないような、展開もオチも容易に読めてしまう。


しかし、それは、グラン・ギニョル座で観劇していた当時の人々も同じだったと思う。
意外な展開やびっくりするようなオチを求めているのではなく、登場人物が、いかに残酷で悲惨な目に遭うのか、その一点だけに興味が集中している。
「究極の責め苦」は、他のフィクションならラストで娘が助かるかどうか、が焦点になるけど、こちらでは助かるなんて選択肢は絶対になく、酷い前フリがあるだけに、彼女がどんな責め苦を受けるのか、そこに興味が集中する。


「自分はこんな目に逢いたくない」でも「興味はある」という見世物的肌触りこそが、グラン・ギニョルに求めるもの。
だから、その恐怖は、観客から遠く離れたものではなく、隣人が遭遇してしまうかもしれない距離感が大事。
理解できないもの=恐怖、という図式は古代から変わらないものの、ここで描かれる題材にスーパーナチュラルな要素は皆無。あるのは、病気、貧しさ、殺人者、外国人など。特に、オカルトから科学のレッテルが貼られたものの、まだまだ正体不明な精神病ネタ多数。当時、いかに精神病の話題がトピックだったのか想像に難くない。まぁ、精神病への偏見は、今も大差ない気はするけど。


この、現実にありそう(でもない)という距離感は、上記した怪奇実話や都市伝説と同じで、現在見られるそれらの上流に位置している。例えば「助産婦マダム・デュボワ」は、「急患が出て、車で駆けつける途中に…」という怪談と全くオチが一緒。
類型を探っていくのも面白い。


恐怖物語愛好家必読の一冊。