怪奇文学大山脈I 西洋近代名作選【19世紀再興篇】

『怪奇文学大山脈I 西洋近代名作選【19世紀再興篇】』荒俣宏・編〈東京創元社

西洋怪奇小説の山脈は、無尽蔵の宝の山である――豊饒なる鉱脈に眠る傑作群の紹介と翻訳に尽力した、21世紀を代表する碩学荒俣宏。その幻想怪奇にまつわる膨大な知識の集大成ともいうべき巨大アンソロジーをお届けする。飽くなき探求の果てに見出された、幽霊、妖(あやかし)、呪い、怪物、そして運命の恐怖を描く、稀なる名作を全三巻に集成した。第一巻には本邦初訳作を中心とした14篇と編者による詳細なまえがき・作品解説を収録。


・「レノーレ」……ゴットフリート・アウグスト・ビュルガー
・「新メルジーネ」……ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ
・「青い彼方への旅」……ルートヴィヒ・ティー
・「フランケンシュタインの古塔」……作者不詳
・「イタリア人の話」……キャサリン・クロウ
・「人狼」……クレメンス・ハウスマン
・「モノスとダイモノス」……エドワード・ブルワー=リットン
・「悪魔のデイッコン」……ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ
・「鐘突きジューパル」……フィッツ=ジェイムズ・オブライエン
・「仮面」……リチャード・マーシュ
・「王太子通り二五二番地」……ラルフ・アダムズ・クラム
・「使者」……ロバート・W・チェンバース
・「ふくろうの耳」……エルクマン=シャトリアン
・「重力が嫌いな人(ちょっとした冗談)」……コンスタンチン・ツィオルコフスキイ

欧米の怪奇幻想文学史を概観する巨大アンソロジー。1巻は19世紀のドイツから。


先日行われた「東京創元社 2014年新刊ラインナップ説明会」において、池澤春菜嬢が止めなければ、いつまで続いたかわからなかった荒俣先生の講演w 
その内容の完全版wが読めるまえがきからして、まず面白い。
師匠・平井呈一との出会い、本書ができるまで、怪奇幻想文学事始めが記されている。
さらに巻末の詳細な解説も必読。


シャッフルして好きなところから読むこともできるのが短篇集だけど、本書は、古い音楽愛好家が言うところの収録の順番に意味がある、ということがよく味わえる。
バラッドから始まり、だんだんに今の小説のような形式になっていく様子が体感できるのが楽しい。
また、内容も、初期は妖精や妖怪が存在しているのが前提の(信じられている)昔話風のもの。彼らと意思疎通したり、避けがたい災害のように描写されるため、そこにパラノーマル感は薄い。そこから時代を経るに連れ、「そんなものがいるはずがないのにいる」だから怖い、というふうにシフト。さらに、カウンターとして科学(博士)が出てきて、怪異との対立は深まっていく。
その変遷を知るためにも、前から順番で読むことを推奨。


お気に入りは「新メルジーネ」「モノスとダイモノス」「ふくろうの耳」あたり。「フランケンシュタインの古塔」の来歴はかなり面白い。
人狼」は見覚えあると思ったら、『狼女物語』*1に載ってました。


2巻も楽しみ。