VOICES FROM THE STREET

異常なまでの外見偏重とその裏返しの内面の歪み、肥大化した自我のケダモノと化した青年の破滅と現実への帰還を描く「カフカパルプ・フィクション」。物語の背景は濃厚な末世澆季の気分が支配するサンフランシスコ。人種差別、ネオ・ファシズム、性差別、朝鮮戦争マッカーシズム、核の恐怖、カルト、世界終末戦争……アメリカ社会のタブーに敢然と切り込んだディック二十五歳の処女作はしかし、あまりの過激さゆえ長く筐底深く沈めることを余儀なくされ、死後四半世紀を経てようやく日の目をみた問題作でもある。渾身の訳業、待望の日本語版。

ディックの初訳作品といえば、オレですよ。
過去の有名作品をほとんど読まず、最近になって初めて訳された作品を読んで「ディック、つまらん」と言っては、SFの偉い人に説教喰らうという一連のプレイ。


まさに


*1


と言う感じ。


実質的な処女長編らしいんだけど、内容はSFではなく普通小説。
電気屋に務める画家崩れの男。妻とはちょっとギクシャクし、仕事にも不満がある。そんな中、世界終末戦争を唱えるカルト教団に興味を持ち……って、いつもどおりじゃん(笑)


上記の通り、ディック作品はあまり読んでないんで、あまり比較できないんだけど、少なくとも『未来医師』*2よりは面白いかな(また怒られそうな……)
SFにしなくちゃいけないというバイアスがない分、物語は筋が通っている。
ただ、一度だけ突然「脳内の蜂に言ったのさ」というセリフが出て来る。後にも先にも、それには全く言及されないから浮いていて気持ち悪いんだけど、反面、「ああ、ディックだ……」と安心感も(笑)


終盤の地獄巡り的展開は迫力があり、それを経ての解脱とも思えるラスト。自分の中だけで世界が完結してしまうある意味「セカイ系」な展開は後に通ずるものがあるのかな。
このへんのインナースペースをSFに転換しただけかも、というのは興味深い。


まぁ、他のディック作品をちゃんと読んでいる人用ですよ(笑)