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言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

遥かな未来、人類は辺境の惑星アリエカに居留地〈エンバシータウン〉を建設し、謎めいた先住種族と共存していた。アリエカ人は、口に相当する二つの器官から同時に発話するという特殊な言語構造を持っている。そのため人類は、彼らと意思疎通できる能力を備えた〈大使〉をクローン生成し外交を行っていた。だが、平穏だったアリエカ社会は、ある日を境に大きな変化に見舞われる。新任大使エズ/ラーが赴任、異端の力を持つエズ/ラーの言葉は、あたかも麻薬のようにアリエカ人の間に浸透し、この星を動乱の渦に巻き込んでいった……。現代SFの旗手が描く新世代の異星SF

物語のメインであるアリエカ人の特殊言語も、彼らが作る生体アイテムも、超空間航法も、どのアイデアも飲み込みづらく、なかなか物語に入り込めず。


しかし! これは、早くも今年度もベスト候補に間違いないでしょう。


ミエヴィルの特徴とも言える、(異形の)都市小説ではあるんだけど、そちらは比較的控えめ。
現実しか表現できない(嘘がつけない)言語体系の異星人、というアイデアをどんどん推し進め、現実をロジックに合わせるための直喩という存在、嘘祭、言語麻薬による破滅の危機、さらには言語の進化、とSFならではの異世界を思う存分味あわせてくれる。


同時に、神の言葉によって引き起こされる混乱はバベルのようにも、たった一言によって破滅に向かうさまはスペインからもたらされた単なる風邪で死滅してしまうアステカ民族のようにも、麻薬によって言いなりにしようとする模様は西欧の侵略にも、を意識しているようにも見える。
調和と拡散を予感させるラストはSFらしいけど、類まれなオリジナリティが失われ、一度変容したコミュニケーションはもう元には戻れない寂しさも感じる。ケータイがない世界を思い出せないのと似てるかな(笑)


アリエカ人は、クトゥルフの古のものみたいだなぁ、と思ったら、やはりそんな姿なのね。


非常に歯ごたえがあるものの、ここでしか見られない世界、そこでしか展開しない物語は「SFを読んだ〜!」という満足感を得ることができる一冊。


ところで、邦題は『都市と都市』*1を意識したんだろうけど、作中で「エンバシータウン」が連呼されるので、原題まんまでよかったような……