LA TIA JULIA Y EL ESCRIBIDOR

フリアとシナリオライター (文学の冒険シリーズ)

フリアとシナリオライター (文学の冒険シリーズ)

結婚式当日に突然昏倒した若く美しき花嫁。泥酔して花婿を殺そうとする花嫁の兄。一体ふたりの間には何があったのか!? 巡回中のリトゥーマ軍曹が見つけた正体不明の黒人。彼の殺害を命じられた軍曹は果して任務を遂行することができるのか!? ネズミ駆除に執念を燃やす男と彼を憎む妻子たち。愛する家族に襲撃された男は果して生き延びることができるのか!? ボリビアから来た〈天才〉シナリオライター、ペドロ・カマーチョのラジオ劇場は、破天荒なストーリーと迫真の演出でまたたく間に聴取者の心をつかまえた。小説家志望の僕はペドロの才気を横目に、短篇の試作に励んでいる。そんな退屈で優雅な日常に義理の叔母フリアが現れ、僕はやがて彼女に恋心を抱くようになる。一方精神に変調を来したべドロのラジオ劇場は、ドラマの登場人物が錯綜しはじめて……。『緑の家』や『世界終末戦争』など、重厚な全体小説の書き手として定評のあるバルガス・リョサが、コラージュやパロディといった手法を駆使してコミカルに描いた半自伝的スラプスティック小説。

2010年のノーベル文学賞を受賞し、『緑の家』*1とか『チボの狂宴』*2とか、難解そうな作家だなぁ、と思ってる人も多いかもしれないけど、少なくとも、この作品は小難しいこと考えず、普通に面白い。


作家を目指す主人公と、義理の叔母のロマンスというストーリーの合間に、ラジオドラマが挟み込まれるという体裁。
このラジオドラマのどれもが、グラン・ギニョールのように、スキャンダラス&グロテスクで面白く、毎回毎回クリフハンガーで終わっていて、本編よりもこっちの続きを見せて! と作中の聴取者と完全に同一化。天才キャラが描いた作中作は本当に面白いの? という疑問をこの作品は完全に払拭してくれる。
しかも、実はそれぞれのドラマがつながっているというオタク心をくすぐる設定なのかと思わせといて、どんどんおかしなことになっていく様は、困惑と同時に大笑い。


一方のメインストーリーは安いソープオペラ的展開だったのが、ラジオドラマの混乱に呼応するかのように、スラップスティックなものに。婚姻届ってあれでOKなの!?


一冊の中に、デビューしようともがく作家の卵、引っ張りだこの天才作家、売れっ子の末路、と三態が同時に描かれており、バルガス=リョサの作家観が見えるようでもあって、興味深い。


お気に入りのラジオドラマは、ネズミ駆除、交通事故のトラウマの克服、強姦容疑の宗教者、サッカー審判、あたりかな。
変な話短篇集としてもオススメ。