Jodaeiye Nader az Simin

『別離』鑑賞





本年度アカデミー外国語映画賞受賞作。

テヘランで暮らす妻シミンは、11歳になる娘テルメーの将来のことを考えて、夫ナデルとともにイランを出る準備をしていた。しかしナデルは、アルツハイマー病を抱えることとなった父を置き去りにはできないと国を出ることに反対。夫婦の意見は平行線をたどり、シミンが裁判所に離婚申請をするが、協議は物別れに終わる。シミンはしばらく家を出ることとなり、ナデルは父の世話のためにラジエーという女性を雇うことにした。しかし、ある日、ナデルが帰宅すると、父は意識不明でベッドから落ち床に伏せていた。ナデルは怒りをあらわにして、ラジエーを問い詰め、彼女を手荒く追い出してしまう。その夜、ナデルは、ラジエーが入院したとの知らせを受ける。しかも、彼女は流産したというのだった……。

ニュース経由のネガティブな情報しか知らない、遠い国イランでも、同じように離婚問題や介護問題で悩んでいるんだよね。
同時にそれらの問題には、イスラムならではのバイアスがかかり、更に複雑化している。
しかし、この映画はその問題提起が全てではない。いや、本質的にはイランが抱える社会問題なんだけど、映画的にはミステリ的な文法をとっている。


ラジエーは何故、ナデルの父を縛って外出したのか?
本当に突き飛ばされたのか?
ナデルは妊娠を本当に知らなかったのか?
金は盗まれたのか?


イランでは19週以上の胎児は人と見なされるため、ナデルは殺人の容疑者となってしまうのだ。
静かな緊張感を湛え、西欧とは違う価値観の世界で、少しずつ事実が明らかにされていくさまが、非常にスリリングに展開されていく。
メインキャラは基本的に5人で、そのそれぞれが嘘や隠し事を秘めていて、それが価値観の違いや、男尊女卑とコーランのパワーの狭間で揺れ動いていく。この中で、目立つ悪役を押し付けられているホッジャトが実は一番正直なんだよね。また、正論しか言わないシミンは離婚したくて暗躍しているのでは? と勘ぐったり。
また、そこには主人公夫婦の愛情の行方も重なっていて、どのような答えが出されるのか?


それまでの経緯を示され、ラストは観客に委ねられる。


テルメー役の女の子が、見事にマルジ*1だったなぁ(笑)