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ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ディックの感想を口にするたびにお叱りを受けるので、黒表紙版の中から読むのなら、という条件で意見が多かった今作に着手。

1992年、予知能力者狩りをおこなうべく、ジョー・チップら反予知能力者が月面に集結した。だが予知能力者側の爆弾で、メンバーの半数が失われる。これを契機に、恐るべき時間退行現象が地球にもたらされた。あらゆるものが退化していく世界で、それを矯正する特効薬は唯一ユービックのみ。その存在をチップに教えたのは、死の瞬間を引き伸ばされている半死者エラだった……鬼才ディックがサスペンスフルに描いた傑作長篇。

※注:そこそこの読書していながら、PKD長篇は3冊しか読んでない(しかも、あまりいい印象を持っていない)人間の感想だと思ってください。


多くの人が進めるだけあって、『未来医師』*1の印象(問題発言)は払拭されましたよ。また、非常にリーダビリティもいい。


正直、小説としてはあまりうまくないと思うんだよね。超能力者×反超能力者によるビジネス戦争はどうでも良くなっちゃうし、並行世界と仮想世界が並存している割に上手く接続していないし、思わせぶりに登場するパットは途中消えたのかと思うほど出て来なくなっちゃうし……そもそも、ユービックってなに? 
しかし、いくらPKD経験値が少ないとは言え、作者がどういう人生を送ったかは多少は知ってるし、それを無視して読み解くことができないのもわかってる。


面白いのは、世界が崩壊していき、死んだはずの人間がコミュニケーションを取ろうとしてくる物語なんだけど、主人公は自分の正気を一切疑うことはなく、おかしいのは世界の方だという確固たる考え。
普通、この舞台を用意されたら、どちらが現実か自己を疑う方向に進むと思うんだけど、まるでそうはならない。これが、病状を見事にSFとして昇華できているんだよね。だから、本人の中では整合性が取れている(のかもしれない)んだけど、精神病という極めてパーソナルな情況を可視化しているものだから、他人からはその連続性がまるでわからず、それが独特の味になっている。
前半と後半で話が変わっちゃってるんだけど、シームレスにつながってるものだから、読んでる最中はそれが気にならず、残りページ数と反比例するかのように存在感を増していくユービックに強烈な不安を覚える。


また、登場ガジェットはかなり印象的。特に半死者の仮想現実は『マトリクス』*2シリーズを想起させ、死ぬべき運命は『ファイナル・デスティネーション*3を個人的には思い出した。


ユービックとユビキタスの語源は一緒で、「遍在」という意味から読み解くと、またキリスト教的に読めるのかなぁ。
で、ユービックってなに?