HALF A CROWN
- 作者: ジョー・ウォルトン,茂木健
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/08/28
- メディア: 文庫
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三部作完結編!
ソ連が消滅し、大戦がナチス・ドイツの勝利に終わった1960年、ファシスト政治が定着したイギリス。イギリス版ゲシュタポである監視隊隊長カーマイケルによって育てられた18歳のエルヴィラも.ユダヤ人迫害や強制収容所建設には関心をもたず、目前に迫った社交界デビューとオックスフォード大学進学に思いを馳せる日々を過ごしていた。しかしそんな彼女の人生は、ファシストたちのパレードを見物に行ったことで、カーマイケルを巻きこみながら、大きく変わりはじめる……。あらゆるエンターテインメントの要素に満ちた三部作、怒涛の完結編。
前作から8年が経ち、改変のズレはさらに大きくなっている。枢軸国側の勝利で終わったようで、敗戦国の様子はあまりに皮肉。飛行船がメインの航空手段になっているっぽいのが、SF魂をくすぐる(笑)
前二作に比べると、主人公エルヴィラは一番庶民の代表に近いかな。カーマイケルと違って、背負うものも信念もなく、状況に疑いを持たずに生活する彼女は、多数の読者との目線と重なる。ナチスドイツのコピーと化したイギリスは悪夢だけど、そこで暮らす人間はまさに茹でガエルで、それに気づかない(それは我らも同じ)。逆に正そうとするものこそが異端者として扱われてしまう。恐ろしいのは、本当の異端者ではなく、疑われただけで逮捕されてしまうのがファシズム国家。『ウォッチメン』*1『V・フォー・ヴェンデッタ』*2と感触が似ているのは、イギリスのファシズムへの根源的な恐怖っていうのがあるのかな?
今回はそのエルヴィラの運命に加えて、今まで傍観者だったカーマイケルも事態の中心に据えられ、イギリスの命運も併せて展開は最もスリリング。
その反面、ラストはフェードアウトで小説的な盛り上がりにはちょっと欠ける。まぁ、エルヴィラが真実に気づき、庶民の声、イギリスならではの王権、そして民主主義の選択としては、これでいいのかな。エピローグ好きとしては、もうちょい余韻が欲しかったけど。エヴァンズが裏切った(?)理由は特に書かれてないよね?
改変歴史ジャンルの傑作として今後数えられることは間違いないので、三冊まとめてオススメ。