STORM WARNING

『太陽神の司祭』マーセデス・ラッキー創元推理文庫F577−18、19〉

この男があの〈白い悪魔〉のひとりだって? カース国の書記官カラルは混乱していた。案内してくれた親切なヴァルデマール人が、故郷で〈白い悪魔〉として恐れられている〈使者〉だったとは。共通の脅威ハードーンを前に、長年の宿敵カースとヴァルデマールが手を結んだ。そしてヴァルデマールヘの使節に同行したカラルは、信じてきたことがことごとく覆されるのを目のあたりにしたのだ。一方ヘイヴンでは、女王をはじめ、王女エルスペス、テイレドゥラスの〈達人〉そして伝説の生き物鷲獅子までもが使節を待ち受けていた。待望の新三部作開幕。
アン=デシャは困惑していた。〈隼殺し〉から解放されたのはいいが、自分の中にまだ〈隼殺し〉が隠れているのではないかという疑念に苛まれていたのだ。そのうえどういうわけか、助けてくれたテイレドゥラスの魔法使い〈炎の歌〉と恋仲になってしまった。そんなとき、ヴァルデマールを魔法嵐が襲う。ハードーンは撃退したが、その背後には強大な魔法の力をもつ皇帝が治める〈東の帝国〉がいたのだ。間者を送りこんでヴァルデマールを内部から切り崩そうとして失敗したため、より直接的な手段にでてきたのだ。〈ヴァルデマールの嵐〉第1部。

『伝説の森』*1直後の新三部作。
3年空いたうえ、他のエピソードが4作*2挟まっているのでうろ覚え……でも心配ご無用。主人公がカース国の書記官カラルと、〈隼殺し〉から解放されたアン=デシャというヴァルデマールにとって完全な異邦人なので、ある種リスタートとして読むことができる。
これまでの主人公たちも出てくるけど脇役であり、焦点はカラルのカルチャーショックと成長に絞られているため、ここしばらくの三部作によく見られた薄い群像劇とは違って、主人公一人を十分に追っていて楽しめる。惜しむらくは、カースが民主改革(?)され、カラルもアカデミックな人格のため、それほどカルチャーショックが強くないことか。
物語は〈東の帝国〉との戦争になると思いきや、未曾有の災害への対応に東奔西走するというのも今までになかったパターン。しかも、初登場と言っても過言でない技術者集団が活躍するのも『プロジェクトX』好きとしては嬉しい(笑)
また、〈東の帝国〉の征服理念がファンタジーの敵役にしてはひじょうに受け入れやすく、ある意味文明的なのが面白い。これをただ倒すだけだともったいないなぁ。


もしかしたら、今までで一番面白いかも。少なくとも、次巻が楽しみ。