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森の惨劇 (扶桑社ミステリー)

森の惨劇 (扶桑社ミステリー)

森の惨劇ジャック・ケッチャム〈扶桑社ミステリー ケ6-10〉ケッチャムの初期作品。

ベトナム戦争から帰還したリー・モラヴィアンは、心に深い傷を負って現実生活に適応できなくなり、人里離れた山の中で犬とともに暮らしていた。マリファナを栽培しながらの生活のなかで、リーは戦争の後遺症から、しばしば現実と戦闘中の記憶が混乱していた。そこに人気作家ケルシーを中心とした仲間6人がキャンプにやってくる。ケルシーの愛人も交えた微妙な人間関係とはいえ、各人はそれぞれの思いを秘め、キャンプを楽しんでいた。しかし、彼らが偶然マリファナ畑を見つけたことで、キャンプは一変する……。

ケッチャム作品の中では、割と普通かな。
彼の暴力には意思が介入せず、不条理に振りかかる。
でも、本作は、理由がわかる不条理、というか、狩る方も狩られる方にもわかりやすい意思が存在している。また、残酷描写だけでなく、キャラクター造形も他の作品より印象的。そういう意味では『老人と犬*1に近いかな。
とは言っても、衝撃がないわけではなく、PTSDの描写はかなりショッキング。『一人だけの軍隊』*2がある種のロマンで終わるのに対して、こちらは最後まで悲劇と狂気。しかもベトナムに行ってない人間にとっては全く無関係で終わる残酷さ。主人公のケルシーも、奇妙な男女関係のことしか考えてないんだよね。
善悪に対する無関心さではなく、戦争に対する無関心さは普遍的で、それがなんともいえない後味を残す。