BLACK JUICE

ブラックジュース (奇想コレクション)

ブラックジュース (奇想コレクション)

日本では、ほぼ初紹介に近いオーストラリア作家の短篇集。


 収録作品
・「沈んでいく姉さんを送る歌」Singing My Sister Down
 夫殺しの罪でタールに沈められる姉。
 彼女の家族は、食事を用意し、歌を歌いながら彼女が沈んでいくのを最後まで見守る。


・「わが旦那様」My Lord's Man
 自ら、いかがわしいごろつきと出ていった領主夫人。
 それを追う領主と、彼を敬愛する従者。
 追いつき、奇襲をかけるのかと思いきや……


・「赤鼻の日」Red Nose Day
 絶大な権力を持つ(?)ピエロたち。
 彼らを暗殺していく男。
 「道化の町」みたいな話なのかと思いきや、全くの別物。


・「愛しいピピット」Sweet Pippit
 動物園を抜け出した象たち。
 いなくなってしまった飼育員を捜して町へ向かう。


・「大勢の家」House of the Many
 〈大勢の家〉と呼ばれるものを崇拝し、〈詩人〉をリーダーとした禁欲的なコミュニティ。
 少年は12歳になり、その生活に疑問を持って、タブー視されている町へ向かう。
 ちょっと『ヴィレッジ』のイメージが頭をよぎった。


・「融通のきかない花嫁」Wooden Bride
 花嫁学校を卒業した少女。
 丘の上の教会に向かうが、迷ってしまう。
 しかし、何が何でも行かねばならない!


・「俗世の働き手」Earthly Uses 
 粗暴な祖父に命じられ、余命幾ばくもない祖母のため、チーズを餌に天使を探しに行く少年。
 その天使の姿は?
 SFMで既読。前も思ったんだけど「グーバーども」と印象が似てるんだよな。
 おじいが出てくるから?(笑)


・「無窮の光」Perpetual Light
 大気が汚染されつくされた未来。
 祖母の葬儀に向かう孫娘は、彼女との幼い日の記憶を辿る。
 表向きは祖母との思い出、母と顔を合わせたくない、という葬儀のエピソードなんだけど、そこに見え隠れしているのは、『ブレードランナー』が更にひどくなったような世界。


・「ヨウリンイン」Yowlinin
 地中から現れ、なんでも食べてしまうヨウリンイン。
 幼い頃、それから逃れた少女は街の人々から忌み嫌われていた。
 彼女はある少年に恋していたが、そんなある日、再び……


・「春の儀式」Rite of Spring
 愚鈍な青年。
 彼は嵐のような冬を終わらせ、春を呼ぶために山の頂に立つ。


最近は、他人に説明するのに「変なの」というしかない短篇を多く読んでる。その手の小説は、読み手がいきなり変な状況を目の当たりにするんだけど、それにけっこう(なぜか)納得して読んでいることに気づいた。世界に溝が刻まれようが、皮膚が宇宙服になろうが(笑)
だけど、ラナガンの作品はかなり戸惑う。やはり変な世界なんだけど、説明がほとんどないんだよね。なぜピエロが特権階級なのか、花嫁学校はなんなのか、天使はなんなのか。にもかかわらず、主人公たちの行動や心情は普通に理解できるもの。その妙な軋轢が、他の「変な小説」とはまた違った味わいを醸しているのかな。


お気に入りは「沈んでいく姉さんを送る歌」「赤鼻の日」「大勢の家」「ヨウリンイン」「春の儀式」。中でも「沈んでいく姉さんを送る歌」がぶっちぎりで素晴らしい。


次はついに『TAP』が予定。
そして、予想通り『たんぽぽ娘』との間にまたニューフェイス(笑)
やはり、ライバーだったか。