LOVE AND OBSTACLES

愛と障害 (エクス・リブリス)

愛と障害 (エクス・リブリス)

サラエヴォに生まれ、ユーゴ紛争を機にアメリカに移住した語り手の、思春期のほろ苦い思い出、家族と失われた故郷への思い……『ノーホエア・マン』で注目を浴びた鬼才による、待望の最新連作短篇集。
十六歳の主人公は、下級外交官の父の任地ザイールで家族とひと夏を過ごす。上階にはスピネッリというアメリカ人が住んでいて、真夜中にレッド・ツェッペリンの「天国への階段」に合わせてドラムを叩くという悪癖があった。(「天国への階段」)
二十代の頃、「僕」は詩を志し、ノートに青臭い詩を書きためていた。ユーゴ紛争前、詩人の集まるカフェでムハンマド・Dという詩人に出会う。詩は認められなかったが、彼と仲間たちに気に入られ、なぜか「指揮者」というあだ名で呼ばれるようになる。(「指揮者」)
ユーゴ紛争終結後、作家として成功しつつあった主人公は、サラエヴォの旧居を久しぶりに訪れる。アメリカ大使館のレセプションに招かれ、ピュリッツァー賞作家に出会うが、酔った勢いで彼を両親のいる自宅に招いてしまう。(「苦しみの高貴な真実」)
ユーモラスで温かな描写のなかに、小説を書くとはなにか、物語るとはなにか、真実は本当に真実なのかといった問いが巧みに織りこまれている。虚実の皮膜を凝視する、八つの物語。

お初の作家さんだけど、『ノーホエア・マン』*1ってのが出てたのね。


自伝的短篇集なんだけど、どうにも嘘くさいエピソードばかり。奇想天外な冒険譚ばかり語る上階のアメリカ人、真実しか撮影しないと言いながらやたらに演出する父、
しかし、その眉唾をはがすと、真実が見えてくるようなリアリティが存在している(ような気がする)
一方で、現実味のあるエピソードはユーモラスに語り、韜晦しているような感じ。


また、主人公(作者)や家族はユーゴ紛争からは逃れられていて、命が助かったことは喜ばしいことなんだけど、戦場にいられなかったことを悔やんでいるようにも見えるんだよね。
そこに、故国を後にした主人公のアイデンティティが見える。