Die Entdeckung der Langsamkeit

緩慢の発見 (EXLIBRIS)

緩慢の発見 (EXLIBRIS)

ジョンは、幼いころから海を夢見ていたが、生まれつき話すのも動くのものろく、ボール遊びの輪にも入れない。唯一、教師のオームだけが彼に潜む長所に気づく。理解するのは遅くても、一度覚えたことは決して忘れず、他の子供たちよりも深い洞察を得るのだ。教師の推薦で親を説得し、ジョンは海軍に入る。時はナポレオン戦争のまっただなか。生と死の境界での戦闘はあまりにめまぐるしく、ジョンはついていくことができない。彼の周りでだけ、時間がスローモーションで進行する。戦争後、ジョンは平和的な航海に出たいと熱望。北西航路発見を目指し、探検隊の将校として、北極圏へと旅立つ。ここでジョンの緩慢さが幾度となく隊を救う。帰国後、今度は徒歩での探検隊の隊長として再び旅に出るが、この遠征で多くの隊員を失う。遠征の失敗で、ジョンはロンドンに冷たく迎えられる。だが、失意のなか、惨劇の経緯を書き記した本が売れ、一躍有名になり、「サー」の称号まで与えられる。ジョンは再び北極圏に遠征したいと願うが、代わりにタスマニア島の総督に任命される。イギリスへ戻ったジョンは、59歳で再び北極圏遠征隊の隊長となる。旅は当初順調だったが、船が氷に閉じ込められ、船上での越冬を余儀なくされる。ジョンは脳卒中で倒れるが、指揮を執り続ける。翌冬も船は氷に閉じ込められ、さらに三度目の冬を目前にした彼らに、悲劇が襲いかかる……。

はっきり言って、何か格別に面白いことが出てくるわけでもないのに、なんだか最後まで心地よく読んでしまった。


北極探検のジョン・フランクリンを題材にした小説。
ボール遊びも出来ないくらいトロい少年ジョン。しかし、ゆっくりだからこそ、あらゆることが見え、一度覚えたことは忘れず、それゆえに深い洞察力を生み出し、数々の難局を乗り越えていく。
穏やかな筆致が、緩慢なるジョン・フランクリンとしっかりリンクしていて、彼の思考を追うように読書が進む。


また、発明されていない動画の原理や、量子論的観測のような表現など、様々な「見る」行為を、フランクリンの緩慢な目が語っていくのも面白い。


彼に比べてあまりにも拙速に過ぎる世界。
全てが動かなくなった氷の世界に彼らは閉じ込められ、14年を経て、世界が彼らに追いつく……