THE BLACK GRYPHON

黒き鷲獅子 上 (ヴァルデマール年代記/魔法戦争1) (創元推理文庫)

黒き鷲獅子 上 (ヴァルデマール年代記/魔法戦争1) (創元推理文庫)

黒き鷲獅子 下 (ヴァルデマール年代記/魔法戦争1) (創元推理文庫)

黒き鷲獅子 下 (ヴァルデマール年代記/魔法戦争1) (創元推理文庫)

邪悪な魔法使いマ=アルが創り出した残酷で狡猾な殺し屋マカールたちの執拗な攻撃に,〈沈黙の魔法使い〉アーゾウの軍は苦戟を強いられていた。アーゾウの創造物たちのなかでも,とりわけ優れた能力をもつ(そして少々うぬぼれ屋でもある)黒鷲獅子スカンドゥラノンは,敵の恐るべき新兵器を調べようと,密かに敵の陣地に潜入する。〈ヴァルデマール正史〉において幾度も言及される,はるか昔の〈魔法戦争〉の時代。伝説の〈大魔法使い〉アーゾウと宿敵マ=アルとの戦いの物語が,ついにそのヴェールを脱ぐ。新たな三部作〈魔法戦争〉第一弾。
無茶な潜入で傷だらけになった黒鷲獅子スカンドゥラノンは,たったひとりで三頭もの敵を倒した雌鷲獅子の話を耳にする。その雌鷲獅子ザニールは,非常に小柄で,それゆえに周りからはできそこないと思われていた。だが小回りのきく身体と機敏な動きを生かして,度肝を抜くような見事な戦法を編み出していたのだ。彼女はただのできそこないとは思えないが,アーゾウが創り出した新種なのか? 賢く柔軟なザニールに惹かれていくスカンドゥラノンだったが,〈沈黙の魔法使い〉アーゾウの軍に,邪悪な魔法使いマ=アルのさらなる魔の手が迫っていた。

何度も言及されてきた太古の魔法戦争〈The Mage Wars〉三部作がついに邦訳開始!


ちょいネタバレ。


三部かけて、アーゾウとマ=アルの戦いが描かれるのかと思いきや、かなりあっさり風味。毎度同じ事言ってるけど、ラッキーは大局的な戦争絵巻が下手だと思うんだよね。2000年以上も言い伝えられてる戦争なんだから、そりゃ物凄かったんだろうけど、残念ながら、そのカタルシスは描かれていない。マ=アルの野望も暴虐もよくわからないし。共著なんで、その辺が得意な作家と組んだのかと思ったんだけどなぁ(旦那さんだそうな)。


ただ、この作品を目的は、グリフォンを描くことなので、戦記モノとしてダメというのはどうでもいい話なんだよね。
その目的通り、グリフォンたちは非常にチャーミング。
モンスターではなく、ちゃんと個性を持ち、喋るグリフォンは海外ファンタジーでよく出てくるけど、向こうではそういう認識なのかな?
容姿にコンプレックスを持ち、しかし、実はそれが他人にはない強みで、どんどん自身をつけていく女子。一方、彼女に気づき、そこから目を離せなくなってしまった、自他共に認めるリーダー格の男子。と、まさに大道ラブロマが展開される(ただしグリフォンに限る)
こういう対人関係の描写は上手いんだよね。


また、後々語り継がれていく〈沈黙の魔法使い〉アーゾウの造形も豊か。
恐らく現代のヴァルデマール人にとっては強大な魔力を持った謎の人物という漠然としたイメージだけがあるんだろうけど、2000年前は、元々愛された人物として伝えられていったんだろうなぁ、という説得力がある。


それにしても、タルマ&ケスリーが出た頃は、年表が未訳ばっかだったけど、今ではほとんど開いたなぁ……