RIVERS OF LONDON

女王陛下の魔術師 (ハヤカワ文庫FT ロンドン警視庁特殊犯罪課 1)

女王陛下の魔術師 (ハヤカワ文庫FT ロンドン警視庁特殊犯罪課 1)

最近のFTらしからぬ、いぶし銀な表紙だなぁ。

二年間の見習い期間を終え、新米巡査ピーターの配属先が決まった。特殊犯罪課! 第一希望の殺人課でこそないが、事務処理仕事よりはずっとましだ。意気揚々と上司のもとへと向かうが、主任警部のナイティンゲールから衝撃の事実を明かされる。自分は英国唯一の魔法使いであり、これからは二人で特殊な犯罪――悪霊、吸血鬼、妖精がらみの事件を捜査するのだと!? かくて魔術師見習い兼新米警官の驚くべき冒険がはじまる!

一般人には知られていない、オカルト専門の刑事がいる、というのはさほど目新しくないけど、警察内の一定以上の役職では周知の存在で、事件現場にも普通に現れるのはちょっと珍しいかな。


作者がドラマの脚本家出身ということもあるのか、物語はグランドホテル方式でいくつかの問題が同時進行し、軽妙なピーターの語りで展開していく。
オカルトを割りと混乱なく受け入れる主人公が、彼の個性なのか、幽霊好きイギリス人の特質なのか、作者の筆致の甘さなのかは判断つかないけど、その軽さが悪い方向ではなく、物語に入り込みやすくしている。


オカルト存在たちの造形は『ネバーウェア』*1や『アメリカン・ゴッズ』*2など、ゲイマンに似てるかな。悪霊による連続殺人がメインなんだけど、それよりも、テムズ川の覇権をめぐる川神たちが印象的。
ピーターが新米魔法使いとして伝統的な修業をすると同時に方、科学的にそれらを検証して、21世紀型の魔法使いになっていく様子も面白い。それが乖離せず、事件解決にちゃんとつながっているので、設定のための設定に終わっていない。
また、容赦なく被害者が出るのも、結構意外。
ちなみに、メイドのモリーは脳内で美少女に自動変換(笑)犬ちゃんもかわいい。


協定、エッテルベルク、ナイティンゲールの過去など、思わせぶりに語られるだけで次作以降の餌がちらつかされるけど、これはこれで物語は完結している。


好みの作品なんで、次も読むつもりだけど、訳者が金子司さんで、連続刊行というと、〈暗殺者ヴラド・タルトシュ〉*3の悲しい思い出が……