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火葬人 (東欧の想像力)

火葬人 (東欧の想像力)

20世紀後半のチェコで活躍したラジスラフ・フクスによる代表作の日本語版。ナチスドイツの影が迫る1930年代のプラハ。葬儀場に勤める火葬人コップフルキングルは、妻と娘、息子にかこまれ、幸せな生活を送っている。しかしその平穏な日常は、時代状況や親ナチスの友人の影響を受けながら、次第にグロテスクに変質していく……

チェコと言うこともあってか、『あまりにも騒がしい孤独』*1に感触がなんか似てる。


家族に優しい男が、親ナチスの友人の影響で変貌していく、という内容。
主人公は火葬場に務めていて、釜の蓋を「鉄のカーテン」と呼んでいるのが暗示的。


救いがないのが、彼自身の人間性は変わらず、物語が始まる前と同じトーンのまま、根っからの親ナチスになってしまうこと。性格が変わってしまうならまだ納得できるのに、家族と隣人を愛する父のまま、私情を交えない実に正しいナチス的行為を繰り返していく。ハードもOSも変わらず、ただ違うソフトをインストールされたかのような。
また、「どん底からドイツを持ち上げたヒトラースゲー!」と「ユダヤ人排斥」は別の話であるはずなのに、いつの間にかシフトし、同一化してしまう恐怖。
これらは、今だから客観的に見られるけど、当時のドイツやスロヴァキアにいたら、容易に染められちゃったんだろうなぁ。


ナチス化していく過程の他にも、主人公の奇妙な振る舞いや、行く先々に現れる常に口論している夫婦など、不気味なガジェットが、軋み始めているチェコスロヴァキアの空気を可視化しているかのよう。
また、やたらと言及されるチベットに、ナチのオカルト傾向やシャンバラを連想してしまったり。


なんとも言えない、変な空気が味わえる小説。
以前プラハは行ったので、旧所名跡が出てくると、場所がなんとなくわかるので、それは楽しい(笑)