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ほかの惑星への気楽な旅 (ストレンジ・フィクション)

ほかの惑星への気楽な旅 (ストレンジ・フィクション)

久々のストレンジフィクション4冊目。

過剰な刺激に身体を蝕まれる「情報病」が蔓延し、その一方で、テレパシーが発達しているいびつな世界。南極では領土問題をめぐって核戦争が勃発の危機にあり、人々は常にストレスにさらされ、不毛な性愛に救いを見いだしている。緊張感に満ちた世界の片隅で、女性科学者とイルカの禁断の愛が、その危ういバランスを崩しはじめる――。1981年に発表されて以来、バーセルミ、ディック、バラードの手法を継ぐまったく新しい現代小説として絶賛を浴び、サイバーパンクの必読書として、果てはスリップストリームの傑作として読み継がれてきた衝撃の書が、待望の翻訳!

このあらすじに示されているほど、わかりやすいSF世界ではない。
わかりにくいのは舞台設定だけでなく、文体自体もそうで、よくわからないのに読み飛ばせず、かと言って精読しても話は追えない。
チューニングのあってない電子音を聞いているようなザラつき。
唐突に挿入される、全く無関係な視点や情景はなんなのか? テレパシーを表しているのか?
作中で言及される情報病と、南極を巡る世界大戦危機は、実はバックグラウンドにとどまるだけで、物語自体にはかかわらず、その正体もほとんど不明。


わからないだらけなんだけど、文中から感じられるのは、突然襲ってくる奇病の発作と核戦争の危機というストレス。常にそれに曝されながらも自分には無関係と振る舞う日常生活。何度も出てくるセックスシーンはすべてが生殖行為ではなく、なんの展望も感じられない。


ディストピアではなく、普段の生活を描いているにすぎないのに、客観的に見ると、なんと暗鬱で未来のない世界か。30年以上前に書かれた作品だけど、それは21世紀現在にも通じることだと思う。


また、ストレスフルで不毛な世界を背景に、他者をどう見てるか、他者からどう見られてるか、絶対にイコールにならないその観点のすり合わせの上に立脚した欺瞞に満ちた社会を描いているのかなぁ。
そこから脱するには「ほかの惑星」に行くしかなく、しかし、それを「気楽」と呼ぶのも、また欺瞞なのかもしれない。