THE DRIVER’S SEAT

運転席 (1972年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

運転席 (1972年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ある北の国から名前のない南の国へ休暇旅行にやってきた女秘書が、そこで予感どおり、あるいは予告どおり惨殺されるまでの36時間の行動を丹念に迫ったもの。ゴシック恐怖小説、形而上学的煽情小説、原因と結果に対するわれわれの因襲的観念を嘲笑する風刺小説、ホワイダニットの探偵小説、どのようにも読者はこの小説を読むことができるが、やはり出会うのは最上のミュリエル・スパークである。

主人公の女性が悲惨な最期を遂げることは、初めの方で予告されている。
そこに向かって展開していくんだけど、『メメント*1みたいな感じでは、全くない。


正直、なんだかよくわからないんだけど、気持ち悪さは結構来るものがある。
何が起こるわけでもないのに、冒頭の服の買い物から気持ち悪く、常に「運命の人」を探す様子や、滞在先で出会った老婦人との咬み合わない会話など、彼女とは、何らかのベクトルが決定的に違うことが思い知らされる。


結果が先に示されたホワイダニットではあるのだけれど、彼女はなぜか自分の最期を知っており、むしろ進んでそこの向かっていく。
その不自然さが、彼女の狂った認知のもとでは自然な流れで、ばらまかれてきた不穏の種が、ラストで結実するさまは、ホッとさえする。


スパークの長篇は初めて読んだけど、他にも行ってみようかなぁ。