野生の蜜

野性の蜜: キローガ短編集成

野性の蜜: キローガ短編集成

日本オリジナル短篇集

ラテンアメリカ随一の短編の名手、魔術的レアリスムの先駆者と評される鬼才キローガの傑作小説集。代表作『羽根まくら』をはじめ、幻想小説、恐怖小説、密林小説等々、ポオ、チェーホフ、キップリングの衣鉢を継ぐ、生と死、リアリティと幻影が渾然一体と化した、完璧精緻な短編30篇を収録。うち8割は本邦初訳。


 収録作品
・「舌」La lengua
・「ヤベビリの一夜」En el Yabebiry
・「羽根まくら」El almohaden de plumas  
・「エステファニア」Estefania
・「日射病」La insolacion
・「鼠の狩人」Los cazadores de ratas
・「転生」El mono que asesino
・「頸を切られた雌鶏」La gallina degollada
・「狂犬」El perro rabioso
・「野性の蜜」La miel silvestre
・「ヴァンパイア」El vampiro
・「入植者」Los inmigrantes
・「ヒプタルミックな染み」La mancha hiptslmica
・「炎」La llama
・「平手打ち」Una bofetada
・「愛のダイエット」Dieta de amor
・「ヤシヤテレ」El yciyatere
・「ある人夫」Un peon
・「ヴァン・ホーテン」Van-Houten
・「恐竜」El Dinosaurio
・「フアン・ダリエン」Kuan Darien
・「死んだ男」El hombre muerto
・「シルビナとモント」Silvina y Montt
・「幽霊」El espectro
・「野性の若馬」El potro salvaje
・「アナコンダの帰還」El regreso de Anaconda
・「故郷喪失者」Los desterrados
・「吸血鬼」El vampiro
・「先駆者たち」Los precursores
・「呼び声」El llamado

「羽根まくら」は何度読んでもおもろいのに、以前出た『愛と狂気と死の物語』*1はイマイチはまらず、自分としてはどう評価したものかと思っていたのだけれども、ようやくそれが定まった。
変な話(変じゃないの多いけど)が好きなら、取り敢えず読んどけ。


キローガを語る上で避けられない二つの要素。
一つは、じっとりと、ブーツの中まで汗が滴りそうな密林の暑さ。その暑さは脳に達し、悪夢にうなされる。
しかし、それは夢などではなく、あっけない死によって、現実であることを突きつけられる。キローガの作品には死がつきまとう。死は突然降りかかり、そこに運命的な意味を見出すことはできない。
そして、その死の匂いが密林へと還元される。


お気入りは、
・「舌」
知人の根も葉もない噂によって、廃業寸前に追い込まれた歯科医。
彼がとった復讐は?


・「羽根まくら」
原因不明の衰弱していく妻。
彼女はついに死んでしまう。
その枕には……
「少しもおかしくないのだ」ってラストが笑える。おかしいって!


・「狂犬」
狂犬に襲われた男。
潜伏期間の40日間発病ぜず、家族の疑いも晴れると思ったが……
「かゆ、うま」って感じ(笑)


・「野性の蜜」
お菓子が大好きな青年。
密林を散歩中、蜜を見つけたが……
「羽根まくら」と似たテイストの作品。


・「炎」
音楽に対する感受性は高いが、同時に神経的な病を患っている少女。
彼女が好きな音楽家が弾いているそばに座ると……
歳の離れた少女に何度も恋したキローガの願望がにじみ出ている。


・「死んだ男」
難なく柵を乗り越えようとした男。
しかし、ふとしたはずみでつまずき、山刀が刺さってしまう。
意味なく、突然振りかかる死を描いた短篇としては傑作だと思う。


・「シルビナとモント」
8歳の時に遊んであげた女の子は今では18歳の美少女に。
かたや、彼は40歳になっていた。
彼女は近々結婚するらしいのだが、彼は未だうだつがあがらない……
もう、完全にキローガの妄想ですか?(笑)