THE FUTURE IS JAPANESE

THE FUTURE IS JAPANESE (Jコレクション)

THE FUTURE IS JAPANESE (Jコレクション)

初Jコレ! 
スルーするつもりだったんだけど、半分以上翻訳ものと聞いては無視できませんよ。

フィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞した伊藤計劃『ハーモニー』ほか、日本SFの翻訳出版を精力的に進めるHaikasoru。同レーベルから刊行された、日本がテーマのアンソロジーをJコレクションにて凱旋出版! 日本作家は、円城塔、小川−水、菊地秀行の書き下ろしに、飛浩隆星雲賞受賞短篇「自生の夢」再録、伊藤計刑の傑作「The lndifference Engine」英語版をそのまま収録。いっぽう海外作家は、ネビュラ賞受賞のケン・リュウローカス賞3部門同時受賞のキャサリン・M・ヴァレンテという本邦初訳の新鋭から、大御所ブルース・スターリングまで、書き下ろし8篇を訳載する。


 収録作品
・「もののあはれ」……ケン・リュウ
・「別れの音」……フェリシティ・サヴェージ
・「地帯兵器コンビーン」……デイヴィッド・モールズ
・「内在天文学」……円城塔
・「樹海」……レイチェル・スワースキー
・「率直に見れば」……パット・キャディガン
・「ゴールデンブレッド」…… 小川一水
・「ひとつ息をして、ひと筆書く」……キャサリン・M・ヴァレンテ
・「クジラの肉」……エカテリーナ・セディア
・「山海民」……菊地秀行
・「慈悲観音」…… ブルース・スターリン
・「自生の夢」……飛浩隆
・「The Indifference Engine」……伊藤計劃

日本を題材にした翻訳ものと、日本人作家によるSFのアンソロジー。日本人作家の方は、特に日本を舞台にしているような縛りはないみたい。
正直、全体的にハマらなかったかなぁ。「地帯兵器コンビーン」とか期待したんだけど、このネタの割には突き抜けてないし。
物足りないというか、広がりがなく、こじんまりしてる感じ。それも日本っぽいのかもしれないけど(笑)


その中でお気に入りは、
・「樹海」
青木ヶ原樹海に入り、そこから自殺者の持ち物を回収して、生計を立てているナオ。
ある日、アメリカ人の少女と出会う。
幼い頃に別れた父は日本人で、樹海で自殺したらしく、その霊に会いたいという。
父親探しを手伝うことにするが……
幽霊の描写がJホラーのハリウッドリメイクっぽいんだけど、物語全体を影で覆ってしまうような樹海の雰囲気はよく出ていると思う。
樹海についてはよく調べていて、原生林の中に突然靴だけが置いてあるような日常と非日常の狭間の不気味さなど、ポイントをちゃんとついている。
自殺がタブーのキリスト教圏からすると、地獄に落ちるでもなく、幽霊たちが住み着く名所、というのも奇異に映ったのかな。
また「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女」*1同様、同性愛的表現も健在。


・「ひとつ息をして、ひと筆書く」
人間と妖怪の世界の間に立つ館の物語。
なんとなく中国っぽい空気がしないでもないんだけど、東洋らしさに不自然なところが皆無なのが見事。
ノミネート、受賞歴は多い作家なんだけど、これが初訳。


・「慈悲観音」
北朝鮮のミサイルによって東京が壊滅し、北と南で政府が別れ、混乱が続く日本。
その混乱の中、多国籍の無政府状態と化した対馬
海賊に囚われた南日本の政治家解放のためにやってきた、団体職員の佐藤。
しかし、住人も状況も一筋縄ではいかない、剣呑なもので……
スターリングが描く、欧米以外の、現在現れうる多国籍無法地帯、のリアリティはたまらないものがあるなぁ。
対馬の風土そのものは見えてこないんだけど、元日本なのに、どこともしれないアンタッチャブルな空気。
無法地帯ものの魅力は、怖いもの見たさでそこを訪れてみたいと思わせることなんだけど、スターリングの場合、政治的過ぎすぎて行きたくないと思わせるのが魅力(笑)


せっかくなんで、日本人作家も目を通す。
「内在天文学」と「自生の夢」が面白かったかな。特に前者の、認識がぐらりとする感じはなんともいえない。