THE NIGHT CIRCUS

夜のサーカス

夜のサーカス

夜だけ開く黒と白のテントのなか、待っているのは言葉を失ってしまうようなショウの数々。氷でできた庭、雲の迷路、優雅なアクロバット、ただようキャラメルとシナモンの甘いにおい……しかし、サーカスではひそかに熾烈な闘いがくりひろげられていた。若き魔術師シーリアとマルコ。幼いころから競い合いを運命づけられてきた二人は、相手に対抗するため次々とサーカスに手を加え、魅惑的な出し物を創りだしていく。しかし、二人は、このゲームの過酷さをまだ知らなかった――魔法のサーカスは世界中を旅する。風変わりなオーナー、とらえどころのない軽業師、謎めいた占い師、そしてサーカスで生まれた赤毛の双子……様々な人々の運命を巻き込んで、ゲームは進む。世界で絶賛された幻惑とたくらみに満ちたデビュー作。

『奇術師』*1みたいのを予想していたら、近年のYAによく見られるようなファンタジー色が強く、さらに『ロミオとジュリエット
対立する二人の魔術師の駒となって戦う運命の弟子たちと、そのゲームに巻き込まれた人々の物語。


魔法をサーカスに見せかけた、人智を超えた演し物の応酬は楽しいものの、サーカスジャンルに必要な暗さ、物悲しさ、いかがわしさが皆無なんだよね。ひとときの非日常を見せてくれるが故に、それに魅入られたものは、否応なく日常から切り離されて、ここではない、どこかへ連れ去らえてしまうという怖さもない。


個人的には、サーカスの追っかけの人々の方が、よっぽど日常を捨て、情念に満ちているので面白かったかなぁ。
むしろ、天才クリエーターに夢中のオタクの物語、として読み直すのもいいかも(笑)
オタク故に、そこの一員にはなれないことをわかっているので、やはり、何かが道からやってきそうな不気味さからは一線を引いてるんだけどね。
オタクが下手に向こう側に行くと、ろくなことにはならないという教訓も秘めているし。


作者があくまで、夢幻の演し物を描きたかったからなのか、不思議なほどアウトサイダー感がない。
見てはいけないけど、でも見たい、という後ろ暗さは、華やかな魔法合戦の前ではかき消されており、ファンタジックさのみが前面に出ている。
サーカスではなく、移動ディズニーランドという感じかなぁ。
それならば、まぁ、ラストの選択は幸福なのかな。


映画化権も取得されているのも納得の、ヴィジュアルイメージは素晴らしい。しかし、物語は普通のファンタジー以上になってないのが残念。
二つの陣営が、世界を盤に見立ててゲームを続けるという展開は好みだけどね。