HORNS

ホーンズ 角 (小学館文庫)

ホーンズ 角 (小学館文庫)

ジョー・ヒル第2長篇。

フランツ・カフカ『変身』に匹敵するプロローグから、魔物に取り憑かれたような息もつかせない描写が、壮絶なラストシーンまで続いていく。『ハートシェイプト・ボックス』『20世紀の幽霊たち』などの快作で、日本でも着実にその地位を確立してきたモダンホラーの貴公子、ジョー・ヒル。そして著者の最高傑作がここに誕生した。

個人的には『ハートシェイプト・ボックス*1が全然はまらず、一転『20世紀の幽霊たち*2は大アタリ、一勝一敗で迎えたこの作品。
さて。


一分けかなぁ……


まず、異形になったことによって日常が崩れ去ったように見えるけど、実はイグの人生はすでに壊れていることが間もなく明らかになる。
ある日突然角が生えてしまった理由は明かされず、スタート早々からラストに向けて、イグたちの少年期に始まりそれまでの日常や悲劇への階梯が丁寧に積み上げられていく。
その日常を読ませる筆力は確かだと思うんだけど、それをアイドリングと感じるか、すでに走り始めていると感じるかで、感想は変わるかも。


犯人の正体は早いうちに語られるし、彼女との破局も明らかになるため、そこに推進力はなく、また、悪魔のような姿になったからといって、その対立存在は出てきそうもないことはなんとなく臭いでわかる(笑)。
自然、物語は回想で形作られ、犯人の邪悪さ、イグと恋人の幸せな日々、事件後の辛い風当たり、などが語られていくことになる。
目立った動きがない展開になっていきそうな作りなんだけど、イグの超能力が、悪意ある本音を喋らせてしまうというものであるため、それら回想シーンや本来地味になりがちな内省が非常にアグレッシブ。


イグ(作者?)がオカズにしていたジーン・グレイに対するリーの評がこの物語の象徴で、人々は心の中に悪魔を秘めていて、一方、イグは炎に包まれてダークフェニックスと化す。狂気のジーン・グレイと正気のダークフェニックスという逆転した構造。
50億の狂気の中、唯一混沌に道筋を通す能力を持った主人公、と個人的には妄想。
途中、タイツネタもあり、ダークヒーローのオリジンと読めなくもない。


ただ、前述したとおり、ラストに至るまでの準備はよく読ませるんだけど、カタルシスは薄く、途中で結構ここで疲れちゃった。
また、ラストはある種の優しさが暴露されるんだけど、これはジョー・ヒルのチャームポイントとともウィークポイントとも言えるかなぁ。


ハートシェイプト・ボックス』よりは楽しめたかな。