MANUEL DEL CANIBAL

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

今までのEX LIBRISの中で、一番ジャンル小説っぽいかも。
題名は、邦題のほうが好みだなぁ。

1979年、骸骨となった母親マリナと、その隣に横たわる赤ん坊セサル・ロンブローソが、マル・デル・プラタの「ブエノスアイレス食堂」で発見された。そこは、イタリア移民家族の栄光と苦難の歴史、20世紀アルゼンチン史の光と闇に閉ざされた場所であり、猟奇的事件の幕開けでもあった。移民の双子カリオストロ兄弟は、ホテル厨房で働くマッシモ・ロンブローソの薫陶を受け、『南海の料理指南書』を執筆し、1911年に食堂を開店する。第一次世界大戦が勃発し、双子の親戚のシアンカリーニ一家が食堂を継ぐが、やがて軍事クーデタが起き、食堂は閉鎖される。間もなく食堂は再開されるが、ベロン政権が軍事クーデタで倒れ、縁のあった食堂は暴徒に放火され、消失する。そして1978年、食堂を継いだものの亡くなった、ロンブローソの末裔と結婚していたマリナは、新しい命を宿していた……。

あらゆる人間を魅了するレストラン「ブエノスアイレス食堂」を巡る年代記
アルゼンチンの激動の政治に翻弄される、代々(血族ではない)受け継がれていく食堂とイタリア移民の歴史が語られていく。親類でなく、料理人の腕と舌を通じて、店と味が継承されるからこそ数奇なドラマが生まれ、それを彩るのが作中で紹介される数々の料理。
記されるレシピはファンタスティックな呪文のようであり、それが、ラストで、まさに文字通りスパイスとなって効いてくる。


確かに、食堂の興亡や移民の歴史(アルゼンチンにそんなにイタリア移民が多いなんて知らなかったし)に光を当てた影が形作る、クーデターや独裁者によるアルゼンチン史と読めるんだけど、個人的には『ネクロノミコン*1に代表されるような魔導書・禁書ものとして読んでしまった。


フィクション上の禁書の定義としては、
(1)刷数・残数が極端に少ない
(2)失われた知識(秘密)が記されている
(3)故に誰もが求める
(4)読んだ者に不幸が訪れる
といったところか。
この作品に出てくる『南海の料理指南書』はまさにそれに当てはまる。
後半の主人公セサルは先祖の書いた『指南書』に魅入られ、料理の才能も開花させていく。同時に、彼は育ててくれた叔父夫婦を忌まわしい関係によって破滅させ、誰も食べたことのない禁断の料理を作り、更に料理としてその先へと進んでしまう。ちょっと『タクシデルミア』*2と雰囲気似てるかなぁ。


そんな偏った読み方しなくても、アルゼンチンとグロテスクな物語が好きな方にオススメ。