A PERFECT LIFE

パーフェクト・ライフ 上 (創元推理文庫)

パーフェクト・ライフ 上 (創元推理文庫)

パーフェクト・ライフ 下 (創元推理文庫)

パーフェクト・ライフ 下 (創元推理文庫)

始まりは自動車の盗難だった。続いて自宅に何者かが侵入し、受け持っていた女性患者が病室で殺される。精神科医の卵である青年スコット・トーマスを突然襲う事件の数々。自身に不利な状況証拠が積み重なった末、殺人の重要容疑者となったスコットは、真実を白日のもとにさらし汚名をそそぐべく、独力での調査を開始する。幼少時の火災で家族を失った天涯孤独の彼に罪を着せ、執拗に追いつめていくのは誰なのか? そしてその目的は? 息を呑む展開の連続が興奮を呼ぶ、期待の精鋭によるサスペンス大作!
自分を陥れた真犯人を、必ず見つけ出してやる。患者殺しの重要容疑者として逃亡中の身ながら、スコットは粘り強く調査を続けていた。情報提供や協力を頼んだ者たちが、あるいは裏切り、あるいは殺されていく中、やっとつかんだ手がかり――凄腕のハッカー、クリックへとつながるデータ――を彼は新たな協力者とともに追う。一方、友人のスコットを救わんと独自の調査を続ける老ブルースマンキャノンボールは、今回の一件がかってスコットの体験した、ある惨劇と関係していることを知る……。衝撃の結末まで一気に駆け抜ける緊迫のサスペンス。

精神科医の卵が、悪意ある存在によって追い込まれ、殺人の濡れ衣まで被せられてしまう巻き込まれ型ミステリ。
「巻き込まれ」という単語を小説的にポジティブに活用していて(主人公のスコットにとっては悪夢だけど)、非常にスピード感ある展開、クリフハンガーの連続でラストまで一気読み。


この手の小説は、いかに主人公がかわいそうな目に陥るかがキモ。その点この作品は抜かりなく、スコットは金も地位もないインターン、家族も恋人はなく、友人と言えそうなのはたまたま出会った老ブルースマンだけ。しかも、敵の姿も目的も見当がつかないうちから、彼に振りかかるのは不利な証拠ばかり。警察は彼を信じず、また読者は、彼の協力者に疑いの目を向ける。


物語は、スコットを陥れた真犯人を追う軸と、彼が天涯孤独になった過去の火事の真相の二つが語られ、無関係に見えた二つの事件が実は……という展開。
しかし、実はこれがちょっとパーフェクトとは言いがたいことになっちゃっていて、格言を借りるなら、帯に短し襷に長し(笑)。
メインパートの真犯人の追跡はいいんだけど、過去の火事がどうも呆気ない印象が残る。もう少し刈り込むか、逆にスコットの家族の話をボリュームアップさせた方がバランスとれたんじゃないかなぁ。
だから、両者が擦り寄っていくスリルも、謎の人物の正体が明かされるまでの溜めも薄く、サスペンスの効果としては惜しいことになっている。