CROOKED LETTER, CROOKED LETTER

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

傑作短篇集『密猟者たち』*1の作者による最新長篇(長篇が訳されるのも初めて)。

ホラー小説を愛する内気なラリーと、野球好きで大人びたサイラス。1970年代末の米南部でふたりの少年が育んだ友情は、あるきっかけで無残に崩れる。それから25年後。自動車整備士となったラリーは、少女失踪事件に関与したのではないかと周囲に疑われながら、孤独に暮らす。そして、大学野球で活躍したサイラスは治安官となった。だが、町で起きた新たな失踪事件が、すべてを変えた。過去から目を背けて生きてきたふたりの運命は、いやおうなく絡まりあう――。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作家の感動ミステリ。

「密猟者たち」では、圧倒的な野性が人格さえ持ち得ているかのような存在感を示していたけど、この作品では、眼に見えるような孤独感が作品全体に影を落としている。
その影の前では謎も事件も輪郭を失い、寂しさとあきらめだけが形を取る。


物語は、少女失踪事件の疑いのため、25年もの間、村八分にされていたラリーが再び事件に巻き込まれることから始まる。彼とあらゆる意味で対照的なサイラスの、二人の少年時代と友情、その崩壊が丹念に描かれ、孤独感の正体を露にしていく。
ラリーが影だからこそ、サイラスが光として存在しているんだけど、それが表現としての対立構造だけでなく、物語の根幹にも関わっていることが読んでいくと明らかになっていき、25年ぶりにサイラスは人間としてそれに対峙することになる。


この作品には信用出来ない語り手というものは存在せず、故にラリーの半生も読者は信用し、町の残酷な仕打ちに憤る。個人的には、お化け屋敷のエピソードが胸に突き刺さる。だから、痛々しい諦観と歪な人恋しさも理解できる。しかし、それと同時に、孤独感をじっくりなぞる小説でもある。ラストの「救い」でさえ余計に思えるほど、その空気は印象的。


平易な筆致でありながら、自然、人間、そして気配の描写が見事。