THE MANUAL OF DETECTION

探偵術マニュアル (創元推理文庫)

探偵術マニュアル (創元推理文庫)

名前もない都市の〈探偵社〉には、探偵だけでなく、事件の記録をまとめる記録員が存在する。ある日、都市随一の名探偵シヴァートの専属記録員アンウインは、突然探偵への昇進を言い渡された。何かの間違いだろうと監視員レイメックのオフィスを訪れるが、部屋のあるじは死体となっていた。続いてシヴァート失跡の報が舞い込む。探偵になどなりたくないアンウインは、事件解決のためなんとかシヴァートを見つけようとするが、頼れるのは眠り病の助手と『探偵術マニュアル』のみ。行く手に現われる奇々怪々な犯罪者に振りまわされつつも、真実を求めアンウインは奮闘するが――。ハメット賞、クロフォード賞に輝く幻想探偵譚。

『夢探偵アンウィンと〈カリガリ・サーカス〉(仮)』というワクワクする邦題から、原著どおりの地味なタイトルになっちゃったんだけど、読んでみれば、この方がしっくり来ることがわかる。


カリガリ*1の名前が出てくるせいで、建物などは歪んでいると完全に脳内補完(笑)。さらに、複雑に階級がわかれた〈探偵社〉は『未来世紀ブラジル*2の印象。しかも、街には常に雨が降っていて、舞台の現実離れした感触を強化している。
事件も「最古の殺人被害者の事件」「ベイカー大佐の三度の死事件」「十一月十二日を盗んだ男の事件」と不思議なものばかりで、そもそも、違う職種では完全な没交渉の〈探偵社〉や眠り病の助手という存在がすでに奇妙。
しかし、それらの事件は(一応は)合理的に説明されるので、その部分にファンタジーはない……とは言うものの、事件の前提条件に幻想的なガジェットが据えられているため、奇妙なのか、そうでないのか瞬時には判断できない。まさに、蝶の夢を見ている老人なのか、その逆なのか、世界が不安定。だけど、キャラクターや物事それぞれが不自然な世界に自然と立脚しているため、彼らを追って読み進めることができる。


物語は、巻き込まれ型になるのかな。主人公アンウィンが探偵術マニュアルを片手に、奇妙な世界を駆け回る。地下の記録庫に降りていく様子は、『不思議の国のアリス*3を思い起こさせる。キーアイテムも時計だしね。
そう、アリスの変奏曲として読み直すと、双子はトウィードルダムとトウィードルディー、ミス・ポールズグレイヴは女王、エミリーは白ウサギなのか、ナイトなのか……などと見えてきたり。


ジャンルを特定できない、なんとも奇妙な作品。