AGAINST THE DAY

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

飛行船タイムマシン博覧会テスラ超能力探偵タッツェルヴルム空洞地球シャンバラ四元数アナサジ潜砂艦ツングースカ分身エイリアン冒険ポルノ復讐……

フロンティア消滅直後の19世紀末、アメリカ。謎の組織〈偶然の仲間〉に属する5人の少年(と1匹の犬)は飛行船〈不都号〉を駆りシカゴ万博を目指していた。科学と冒険と博覧会の時代。だがそれは裕福な資本家と困窮する労働者の対立を生みだす時代でもあった。到るところでダイナマイトを炸裂させる〈珪藻土キッド〉が活躍するなか、ひとりの鉱夫ウェブ・トラヴァースが大物実業家の魔の手にかかる。そして物語は動き始める。父を失った家族の復讐の物語が――。地球空洞説に未確認生物、探偵に奇術師が跋扈する世紀の境目を舞台に絡み合う人々の軌跡、錯綜するエピソード群。世界文学の巨人が無数のギャグを織り交ぜながら抜群のリーダビリティと壮大なスケールで贈る、著者最大にして21世紀最初の傑作。
〈侵入者〉は実在していた。歪み始める時間と空間、儚き者たちの恋と運命。〈不都号〉の面々は自分たちの任務に疑問を抱き始める。トラヴァース家の長兄リーフは賭博師として流浪を続け、次兄フランクはメキシコ革命に身を投じた。末っ子キットはヴァイブ家の元を去り大西洋を渡る。そして唯一の娘「嵐の子」レイクは……。膨大に登場する、愚かしくも滑指な人物の数々。その愛しさと哀しさ。もつれ合う彼らの生は、やがて訪れる驚愕の一瞬を目撃すべく、急速に収斂してゆく――。歴史小説にしてSF、恋愛小説にしてポルノ、テロ小説にして大河家族小説。緻密な史実の積み重ねが現代を照射し、荒唐無稽な挿話が涙を誘う。文学の垣根を超える貪欲さと自由さが(改めて)世界中の絶賛と茫然を呼んだ空前絶後の巨篇、世界への祈り。

一歩踏み出す前から困難が目に見えている旅に出るよう。その予感はあたり、なかなか前に進まない。時に迷い、引き返し、足を止める。しかし、ゴールが近づくに連れ、再び旅路を歩んでみたくなる……


初ピンチョン。
パイ生地の如く無数のレイヤーが重ねられた状態を読んでいるようで、しかもそのパイ生地一枚がすこぶる濃厚。さらに読んでいる途中でレイヤーが増えたり減ったりするので、気づくと自分が何を読んでいるのかわからなくなる読書感。
気づいた人だけ笑って、という小ネタの山は、個人的にはアラン・ムーアに似ているという印象。ムーアが漫画でなければ表現できない作品を創造するなら、ピンチョンは小説でないと見えてこない世界を創り上げている。
歴史や風俗、ポップカルチャーに混じって、オカルトや疑似科学がしれっと顔を見せる。それらは平等に説明がないため、情報としても等質。その間を縫って数多くのキャラクターの人生が交差する。それら無数の情報の累積によって、時間さえも包合した点描画のように『アメリカ』と『世界』が浮かび上がってくる。


1700ページ近くある長篇。おそらく、1年以上は遊べる作品だと思う。出てくる小ネタをいちいち調べるもよし、執拗に記される地名でキャラクターの動向を追うもよし、すっきりと描かれない各エピソードを深読みするもよし。筋を追うだけの読書で、2週間近くかかってしまった。


珍しく、注釈本まで目を通してしまった。
それを踏まえても、あえて自分なりの解釈、注目点は沢山あると思う。
飛行船〈不都号〉の面々は主人公でありながら、ちょっと浮いている。彼らは小説内現実の人物であると同時に、小説内作品の登場人物でもあるというメタな存在。『〈偶然の仲間〉と地球のはらわた』はかなり面白そう(笑)。
個人的には、飛行船が他の全てと次元が違う存在が、彼らが観測者であると読んだ。彼らが観測したからには、如何に突飛であろうとも、歴史もオカルトも等しく存在する。
また、キャラクターたちの偶然の出会いが、あまりにも多すぎるのも、観測者がそう光を当てているから。一方のシャンバラは、それを見るための光がないために観測できない。そして、最終的に〈不都号〉こそがシャンバラ化する……なんてこねくりまして読了。
なかなか読み終わらなかったんだけど、終わってしまえば、またいずれ再読してもいいかなぁ。


帯には書いてあるんだけど、登場人物一覧が別紙で欲しかった……
『ピンチョンの『逆光』を読むー空間と時間、光と闇』*1にあらすじが載っているので、それを片手に読むと、ひじょうに頭に入りやすいと思うので必携。