THE PEOPLE OF PAPER

紙の民

紙の民

メキシコから国境を越えてカリフォルニアの町エルモンテにやってきた父と娘。登場人物たちを上空から見下ろす作者=《土星》。ページの上で繰り広げられる《対土星戦争》の行方は? メキシコ出身の若手による傑作デビュー長篇。

キャプションだけだと、いったいどんな話(本)なのか、予想がつかず、様子を見ようと思ったんだけど、思いきって(笑)着手。


作者と戦うって、どういうこと?
疑問を抱きながら読み始めると、冒頭から折り紙外科医なるものが登場。当然、紙の民って、作中(紙上)の人物のことだと思いきや、いきなり紙で内臓を作り始めて、ひるんでしまう。
塵になって崩壊する村は、まぁマジックリアリズム表現として解釈できるけど、キカイガメとか普通に出てくるんだもなぁ。
さらにリタ・ヘイワースやサヤマ・サトル(タイガーマスク)など実在の人物が出てくるのに、そのエピソードは架空。同時に、(多分)架空のルチャドールや蜜蜂ジャンキー、新婚専用ホテル、泥棒教会など、それだけで一短篇できそうなネタがいくつも投入され、それが妙にリアリティがあったりするから困る。泥棒教会くらい、メキシコにしれっとありそうだもなぁ(笑)


情景の描写なのか、文学的表現なのか区別がつかないのがマジックリアリズムなら、この作品の場合、内容レベルでも普通小説なのか、ファンタジーなのか、区別が付けられていない。


リボンの表にリアル、裏にファンタジーと書いて、それを捻って、マジックリアリズムというテープで両端を貼った感じ。


その歪みながらも表裏一体の世界は、そのまま対土星戦争という本筋につながる。
これがまた変で、作者だから作品内容はすべて見通しているんだけど、その視線を遮るのが鉛。レントゲン?(笑)。確かに書かれていないから、キャラクターが何を考えているかはわからないんだけど、それはあくまで作者が書いていないだけで、思考遮断も作者の意志によるもの。
作者に攻撃を仕掛け、彼の存在が紙上から消えて行く様のキャラたちは勝鬨をあげるけど、それも結局は作者が書き、作者の不在は存在し得ないという、このメタになり切れない、なんとも不思議な感触。レイアウトも変わっていて、それが、紙上で戦っている様子をよく表している。
作者とキャラが遭遇するのは漫画では珍しくないけど、ここまで顕著なのは小説ではあまり見ないかも。


そして、このねじれた世界を貫くのが、いくつもの愛のエピソード。
彼が消したい名前があるが故に、この世界が存在する。
ラストは、きっかけが消えることによって、立ち直れたと見るべきなのかなぁ。


何を書いてるかわからないと思うけど、自分でもよくまとめられないので、是非自分の目で、オススメ。
装丁も凝ってるしね。