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わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

『わたしは英国王に給仕した』ボフミル・フラバル〈河出書房新社 世界文学全集Ⅲ-01〉
初世界文学全集。
『あまりにも騒がしい孤独』*1がアタリだったので着手。

いつか百万長者になることを夢見て、ホテルの給仕見習いとなったチェコ人の若者。まず支配人に言われたことは、「おまえはここで、何も見ないし、何も耳にしない。しかし同時に、すべてを見て、すべてに耳を傾けなければならない」。この教えを守って、若者は給仕見習いから一人前の給仕人となり、富豪たちが集う高級ホテルを転々としつつ、夢に向かって突き進む。そしてついには、ナチスによって同国の人々が処刑されていくのを横目で見ながらドイツ人の女性と結婚。ナチスの施設で給仕をつとめ、妻がユダヤ人から奪った高額な切手で大金を手に入れる――中欧を代表する作家が、18日間で一気に書き上げたという、エロティックでユーモラス、シュールでグロテスク、ほとんどほら話のような奇想天外なエピソード満載の大傑作。映画『英国王給仕人に乾杯!』原作。

平たく言うと、小柄な男が、給仕見習いからホテルのオーナーにまで登りつめていく立身出世物語。
途中に挟まれるエピソード、特にセールスマンたちは楽しく、風船マネキンやいくら切ってもサラミが減らないスライサー……。中でも重なりあった自転車がセックスの暗喩になっている話がお気に入り(笑)
他にも小人の家で愉しむ大統領やエチオピアラクダ料理など、真実とも法螺とも捕らえ所のない語りの数々。
しかし、小僧だった頃はファンタジックだった世界は、出世と反比例して、エピソードと取り巻く状況は暗く、グロテスクになっていく。給仕見習いで入ったホテルが「黄金の都プラハ」という名が印象的。
『あまりにも騒がしい孤独』同様、美と醜、富と貧、幸と不幸が一体で、主人公は本当に事態を理解しているのか、主観的幸福を得るために客観的な不幸に身を落としているように見える。
どんな状況でも前向きな主人公といえば聞こえはいいけど、「ここで、何も見ないし、何も耳にしない。しかし同時に、すべてを見て、すべてに耳を傾けなければならない」という教えどおりに、明るい口調にもかかわらず、あまりに他人事な態度がひじょうにグロテスク。息子や切手のエピソードがその最たるもの。ただ、その他人行儀が激動の時代をスムーズに切り抜けていくとも言える。
当事者なのに、視点が絶対的な中立が故に、主人公は最後まで幸せなのかなぁ。


個人的には、プラハの地名や料理が出てくるたびに、チェコ旅行が思い出されて、そういう意味でも楽しめた。


題名はJAROに連絡していいレベル(笑)