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パリは恋と魔法の誘惑(アシュリン&ドラゴン・シリーズ) (イソラ文庫)

パリは恋と魔法の誘惑(アシュリン&ドラゴン・シリーズ) (イソラ文庫)

『パリは恋と魔法の誘惑』ケイティ・マカリスター〈早川書房イソラ文庫10〉
〈アシュリン&ドラゴン〉シリーズ第1作。
触れると火傷しそうな男、という比喩表現をそのまま具現化したのがパラノーマル・ロマンスなんだけど、ヴァンパイア、狼男、ときて、ついにドラゴンになっちゃいましたか。

失業したアシュリンは伯父の会社に雇ってもらい、ドラゴンをかたどった水差しをパリに届けることになった。しかし、顧客は魔法陣の中で殺されていた! しかも、謎の男に水差しを奪われ、アシュリンは殺人の容疑者になってしまう。濡れ衣を晴らすため、パリのオカルト社会に潜入し、魔物を召喚するが……

イソラ文庫は初めてなんだけど、あまりハヤカワっぽくない背表紙なのね。白地にパステルカラーのロゴで、他社のロマンス叢書と並べて違和感がない。まぁ、扶桑社ロマンスが主張激しいんですが(笑)


って、装丁の話はいいって?
まぁ、比較対象としては、(株)魔法製作所シリーズ*1に味は近いかなぁ。ただし、ロマンス以前に、小説として粗すぎる。
毎度書いてるけど、異世界設定がキモ(だと思う)。舞台をしっかり固めておかないと、その上で演じられるストーリーに入り込めないのはあらゆる物語に共通だけど、特にパラノーマル・ロマンスは、そこがちゃんと作り込まれていないと読めたものではないし、しっかりしていなくても、それなりに説明に費やさなくちゃいけない上に、ロマンスを展開させるのが絶対条件だから、ますますストーリーが薄くなるというデフレスパイラル(笑)
まず、世界観が全く示されていないのが、むしろ新鮮。いきなり異世界接触することになった何も知らないアシュリンを追体験する、と好意的に解釈出来なくもないけど、ホントにわからないんだよね。パリ全体が魔界都市で普通の人間と共存しているのか、一部の人間だけが存在を知っているのか、それとも全くの知られていないのかが、登場人物の反応からまるで読み取れない。どの設定にしても、彼らの言動に整合性がない。
だいたい、主人公が趣味で魔法の古文書とかを研究してるって、ご都合主義過ぎるでしょ。でも、彼女はそういう異世界は信じてなかったんだよね。その割にはすんなり溶け込むんだけど、それに対するフォローもなし。別れたダメ旦那の話も最初にしか語られないし、そもそも伯父さんの会社がなんの仕事してるかよくわからないから(美術品販売か?)、必死さも伝わってこない。
犯人捜しも、もったいないよなぁ。ミスリードさせられてたにしては、そこは消化されてないから、作者にそのつもりはなかったんだろうな。
ちなみに、主人公が実は特別な存在で、ロマンスとカタストロフィの運命が不可分というセカイ系気味な設定はいつものことなのでスルー(笑)。ドジっ子キャラの割には、けっこう早めに濡れ場に突入するのは意外。この手の作品で、夢の世界でのセックスが、実は現実と同等というのはお約束?
個人的には、すぐやっちゃうのは面白くないと思うんだけどなぁ。片方もしくは両者が奥手の方が、物語としての牽引力は強くない? ロマンス要素さえあればいいのかも知れないけど、そこも別になぁ。


パラノーマル、ロマンス、犯人捜し、という三つの要素を盛り込んだ結果、消化不足ではなく、説明不足という最悪のパターンかも。
ウイッカンについては訳注が欲しかった。それとも、一般的なファンタジー用語なの? ウイッカンの倫理についても……。文句は尽きませんよ。


パラノーマル設定には慣れ親しんでいる一方で、ロマンスものに思い入れがない、アンヴィバレンツな読者なので、どうにも感想(ツッコミ)が長くなるな。
3冊読んで、パターンが見えて来ちゃった気がするなぁ……
来月も買うけどね(予定)