SYNGUE SABOUR

悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)

悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)

『悲しみを聴く石』アティーク・ラヒーミー〈白水社EXLIBRIS〉

せまくて何もない部屋に、戦場から植物状態となって戻った男が横たわる。その傍らで、コーランの祈りを唱えながら看病を続ける妻。やがて女は、快復の兆しを見せない夫に向かって、誰にも告げたことのない罪深い秘密を語り始める……。

1ページ目からかなりの緊張感。
まるで舞台劇のようで、場面は一室、登場人物は夫婦の二人。
彼女がすべてのインターフェイスになっている。夫と妻、現在と過去、部屋とその外、読者と(おそらく)イスラム圏のアフガン。
そして、彼女が自由になるためのインターフェイスが、題名にある「悲しみを聴く石」である夫。
主人公の女性が西洋的すぎる気もするけど(イスラム圏の実情は知らないけど)、彼女の告白を通じて、イスラム圏での女性、嫁への理不尽な扱いが見えてくる。キャラクターに名前がないことで普遍的な存在となり、彼女たちの代弁者になっている。近くで爆発が起こらない限り、銃声が聞こえている世界が普通というのが恐ろしい。女性への暴力も戦場も日常なんだけど、そんな世界を求めているはずがないし、それを訴えるの役目を、普段は黙って堪え忍んでいる女性に持ってきたのが上手い。男だとこうはならなかったと思うんだよね。
自由に向かって告白を続けるが故に高まる緊張。狂気に陥っていくようにも思えるラスト、「悲しみを聴く石」は砕けたのだろうか?