JONATHAN STRANGE & Mr. NORRELL

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルI

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルI

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルII

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルII

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルIII

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルIII

『ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル』スザンナ・クラーク〈ヴィレッジブックス〉
2004年ヒューゴー賞世界幻想文学大賞ローカス賞受賞作。
以前SFMで紹介されていて、読みたかったんだよね〜

19世紀のイギリス。魔法も妖精も失われて久しく、魔術師たちは論争ばかりの理論家しかいなかった。そこに、長年独学で学んできた唯一の実践魔術師ノレルが現れる。折しもイギリスはナポレオンに苦戦しており、ノレルは自分の力をイギリスの役に立てたいと考えていたのだ。彼の登場でイギリスに魔法ブームが。ストレンジは、土地を受け継いだものの何もしたいことが思いつかない青年。思いつきで魔術師を目指してみたら、これに予想外にはまる。ロンドンで出会ったノレルと意気投合、彼の弟子となる。才能を開花させたストレンジは、対フランス戦で活躍。しかし、その頃から二人の魔術に対する方向性が変わり、袂を分かつことに。さらに険悪になる二人の関係。一方、召喚された妖精が企みにより悲劇が……

改変歴史ものなんだけど一味違う。
魔術合戦的な派手さはなく、テンポはゆっくりめ、キャラクターたちが史実の中で生き生きと軽妙に描れているため、魔法にあふれ、かなり前面に出ているのに、ファンタジーではなく、あくまで19世紀イギリスの物語を読んでいたという印象が極めて強い。それでも、妖精譚が事実として論じられる世界は魅力的で、またストレンジにかけられた呪いやクライマックスの世界の変容など、ファンタジーならではの迫力。
魔法使いが主人公だと、魔術理論など事細かに描写されがちだけど、この作品においては存在感があるだけで、あまりシステムなことは出てこない。その代わりに、ほとんどの章に註釈がある。これが楽しいだけでなく、普通のファンタジー以上に強固に世界を構築し、本の外までも取り込んでいる。深い余韻を残すラスト以降、世界には魔法が帰ってくることになる。この作品は小説ではなく、魔法が存在する現代に執筆された、19世紀の二人の魔術師を題材にした歴史読み物なのだ。それに気づいて、また魔法が効いてくる。


関係ないけど、どうしてもドクター・ストレンジと言っちゃう(笑)
それにしても、ヴィレッジブックスの単行本は高いよ……