2008年度掲載翻訳短篇

S-Fマガジン』の2008年度ももうおしまい。
翻訳短篇は以下。例年よりちょっと少ない?

個人的お気に入りは、
・「予期される未来」……テッド・チャン
 スイッチを押す前にランプが点灯する装置。決して光る前には押せない。
 それは、人間の自由意志を否定するもので……
 2ページのショートショートだけど、「商人と錬金術師の門」より好きかも。


・「十億のイブたち」……ロバート・リード
 ヒューゴー賞ノヴェラ部門受賞
 並行世界の地球へと植民ができるようになった未来。カーラの世界は抑圧的な宗教に支配されている。とあることから、彼女の家族は村八分状態。成長とともに彼女は宗教の真の姿を知り、そして……
 リードらしい短篇。
 抑圧、自然破壊、キャラタクー、SFガジェット、とカチッとうまくはまってるんだよね。
 小説として面白かったです。


・「エコー」……エリザベス・ハンド
 ネビュラ賞ショート・ストーリー部門受賞
 崩壊した世界。孤島で犬とともに暮らす女性は、かつての恋人からのメールを、不安定になった情報網から来るのを待っている……
 何が起きたのかはよきわからないけど、
 帰ってくるのは、まさにエコーだけ、とひじょうに寂しさが伝わるショートショート


・「時のこどもたち」……スティーヴン・バクスター
 遥か未来、地球は姿を変え続けるが、こどもたちの好奇心は変わらない。
 数億年経っても、人間だけは変わらないのはどうなの? と思ったけど、視界が広がったときのこどもたちの顔はなかなか感動的。


・「蟻の王」……ベンジャミン・ローゼンバウム
 ベンチャー企業の社長となった青年。
 ある日、振られた彼女が蟻の王に掴まっていると知り、助けに行こう以降とするが……
 よくあるお伽噺のパターンをそのまま現代に持ってくると、凄い不自然になるという短篇。
 ローゼンバウムは好きなんだけど、短篇集は出ないだろうなぁ。


・「戦争と芸術」……ナンシー・クレス
 地球と戦争を続けているテル人。
 テル人が地球から略奪した物品を保管した倉庫の調査に向かった大尉。
 しかし、そこにあるのは超1級の美術品から、単なるガラクタまで。
 はたして、その意味は?
 親子の反目と異星の理解、芸術への理解が対になっていて、わかり合おうとしないことに対する哀れみ。
 また将軍の大勝の秘密など、ラストまで読ませてくれました。


・「もろびと大地に坐して」……コニー・ウィリス
 本年度ヒューゴー賞受賞ノヴェラ
 地球にやってきた6人のアルタイル人。
 しかし、彼らは怒ったように顔をしかめたまま、ただ立っているだけ。
 あらゆる検査をするが反応がない。
 ある日、クリスマスソングを聴くと、突然座り込み……
 いつもながらウィリスのクリスマスストーリーは楽しい。
 で、ラストはやはりラブコメ


・「両替官とアイアン卿」……ダニエル・エイブラハム
 ヨーロッパ某国の両替官。
 真面目に働く彼だが、ある日、残酷な貴族が暇つぶしで、
 見たこともない通貨をポンドと交換しろと言ってきた。
 勝手に価値を決め手も行けないし、24時間で出来なければ免許を剥奪するという。
 機転でその難問を潜り抜けたものの、数ヶ月後、今度は……
 これは、とんち咄系でひじょうに好み。ラストもいいし。


印象的なのはクラークの「太陽系最後の日」
3度もSFMに掲載された作品はこれが最初で最後か?


特集としては、『テッド・チャン特集』『2007年度英米SF受賞作特集』『秋のファンタジイ小特集』あたり。
スプロール・フィクション特集』は割と普通のファンタジイっぽいのが多かったかな。
また、追悼特集が多い年でもあったなぁ……