BIG BANG

ビッグバン宇宙論 (上)

ビッグバン宇宙論 (上)

ビッグバン宇宙論 (下)

ビッグバン宇宙論 (下)

個人的涙のツボのひとつに、格好良すぎるエピソード・場面がある。映画で言うと『ロード・オブ・ザ・リング』の狼煙とか。
これは、ホピュラー・サイエンス系の読みものに顕著で、『暗号化 プライバシーを救った反乱者たち』と『フェルマーの最終定理 (新潮文庫)』はその双璧(というか、今まで読んだ本の中でも最高にドラマチックな二冊)。
数学は大嫌いなんだけど、数学と数学者たちのエピソードはたまらなく好きなんだよねぇ。
その『フェルマーの最終定理』の作者、サイモン・シンの最新作の題材は、誰もが知っているビッグバン


『ビッグバン宇宙論』サイモン・シン〈新潮社〉読了
「宇宙の始まりは?」と訊かれれば、多くの人が「ビッグバン」と答えるでしょう。
しかし、どのようにしてビッグバン・モデルが発明され、観測され、証明されたかを説明できる人はあまりいないと思います。
現在、ビッグバンのことを語れるのは、20世紀のいくつかの進展のお陰。それを可能にしたのは、19世紀の天文学の発展のお陰。それ以前、2000年の科学の歴史のお陰。数学の前にあったのは、神が世界を作ったという神話への懐疑。
というわけで、世界創世神話から本書は始まります。


常識としては知ってるけど、改めて読むとエラトステネスの地球の大きさを測った話は想像を絶する。なんで気づいたんだろ? 今こうしていても、丸いのなんてわからないしね。
そういう、常識なんだけど、どうやって証明したか、と突きつけられると目から鱗のエピソードばかり。赤方変移は今さら理解できました。SFでお馴染みの特殊相対性理論は、噛み砕かれて説明されても、脳が理解を拒絶する内容だけど(笑)
地球の大きさ、月までの距離、太陽までの距離、アンドロメダまでの距離、宇宙の大きさ……一歩ずつゆっくりと進み、数学、天文学、物理学、原子物理学、分光学、電波天文学、とどう互いにどうかかわってくるのかわからない学問が、章ごとに説明されていき、気づくとそれぞれがビッグバン理論を証明するためのパズルのピースとなっていく展開は、『フェルマーの最終定理』のようなクライマックス的興奮は薄いものの、じわじわと効いてくる。


ビッグバン理論が生まれ、定常宇宙論との戦いになり、最終的に証明される様は非常に面白いんだけど、完全文系人間が理論の話だけで夢中になるわけがない(笑)
この手の本は、理論の説明の間に、学者たちの燃え(萌え)エピソードが満載されている。
トイレを我慢しすぎて死んだ、義鼻の観測者ティコ・ブラーエ。
非常に性格が悪かったニュートン
カヤックソ連から脱出しようとしたガモフ。
世界最大の望遠鏡を作るプレッシャーで、緑の妖精が見え始めたヘール。
エーテルの存在を証明しようとして、存在しないことを証明したマイケルソン。
世界最高の写真解析チームを率いたメイド
素晴らしい論文なのに、ジョークで付けられた題名のため、軽視されてしまった新人学者。
まだまだ出て来るんだけど、SF者としては、フレッド・ホイルの登場が涙のツボ。
恥ずかしながら、天文学者をやってた作家くらいにしか思ってなかったんだけど、この人、凄い人だったのね。下巻ではほとんど主役。
彼自身は、反対の定常宇宙論の提唱者だったのに、皮肉にもビッグバンの名付け親になってしまったとは知らなかった。他にも人間原理によって炭素生成の予測をして、やはりビッグバン理論を後押ししてしまう。今なら『10月1日では遅すぎる (ハヤカワ文庫 SF 194)』をもっと面白く読めるかも。


ところで、ホーキングは出てこなかったんだけど、ビッグバンとはまた別口?
それとも、証明された後の話になるのかな?


サイモン・シンはうまいよなぁ。
数字を見るのもイヤ! と言う人でも本当に楽しく読める。
オススメ。