TURN THE PAGE and other stories

ページをめくれば (奇想コレクション)

ページをめくれば (奇想コレクション)

『ページをめくれば』ゼナ・ヘンダースン河出書房新社 奇想コレクション
奇想コレクション第8弾!

収録作品
・「忘れられないこと」The Incredible Kind
・「光るもの」Something Bright
・「いちばん近い学校」The Closest School
・「しーッ!」Hush !
・「先生、知ってる?」You Know What, Teacher ?
・「小委員会」Subcomittee
・「信じる子」The Believing Child
・「おいで、ワゴン」Come On, Wagon!
・「グランダー」The Grunder
・「ページをめくれば」Turn the Page
・「鏡にて見るごとく――おぼろげに」Through a Glass-Darkly

女性的、というか、"お母さん"的な雰囲気。
長年、教師を務めていたこともあって、教師が語り手で、不思議な子供がやってくるという話が多い。
子供の想像なのか、それとも現実なのか、という(大人の)不安の描写が巧み。


・「忘れられないこと」
 田舎の小さな学校に転校してきた男の子。
 年齢以上の知性を見せる一方で、なぜか、易しい読み物が読めなかったりする。
 ある日、突然、様子がおかしくなる。
 軌道上にいる人が助けを求めているというのだが……
 〈ピープル〉シリーズの未訳作品。
 読んどけばよかったなぁ。
 これだけで独立して読めるんだけど、〈ピープル〉シリーズを読んでいれば、なお楽しめる。
・「光るもの」
 大恐慌時代。
 変わった隣人が、夫が出かけていて寂しいので、夜だけ一緒にいてくれと頼む。
 それだけで、朝食と昼食を出してくれると言う。
 家計を助けるため、仕方なしに行くが、
 彼女はいつもベッドの下に何かを探していて……
・「いちばん近い学校」
 転校してきた不思議な生徒。
 それは……
 個人的には、これが一番好きかも。
 短篇で、生徒の正体自体がオチなので、これ以上書けません。
・「しーッ!」
 近所の男の子の面倒を見ることになった少女。
 宿題をやりたいのだが、非常にうるさい。
 一人で想像遊びでもしてなさいと言うと、しばらくして不安な顔で戻ってきた。
 どんな音でも食べてしまう音喰いを作ってしまったと言うが……
 ヘンダースンによくある、子供の想像に過ぎないと思ったものが……というパターン。
 『トワイライトゾーン』っぽい。
・「先生、知ってる?」
 教師に「先生、知ってる?」と話しかけてくる女の子。
 その子が言うには、両親の仲が上手くいっていないらしい。
 日に日に状況は悪くなっている様子で、
 教師は両親に忠告しようと思いつつも、何もできず、その内……
 子供の目を通した現実が残酷で、
 それこそ大袈裟に想像を膨らませているだけ、と思いたくなるような結末。
・「小委員会」
 突如現れたリンジェニ人と交戦状態の地球。
 休戦会議に臨むのだが、意志疎通が出来ず、会議は一向に進まない。
 出席している士官とともにやってきている妻と息子は、
 ある日、偶然、リンジェニ人の母子と仲良くなる。
 しかし、会議は険悪になりつつ、再び戦争が始まろうとしていた。
 ちょっと理想主義過ぎるような気がしないでもないけど、かなり好き。
 いい話です。
・「信じる子」
 転校してきた少女。
 クラスに溶け込むが、彼女はお話を本当に信じてしまう性格だった。
 二人のいじめっ子に、それをネタにしていじめられるようになってしまい……
・「おいで、ワゴン」
 変わった甥っ子。
 彼がおもちゃのワゴンに呼びかけると、ついてくるのを目撃する。
 ある日、事故で運転手がトラクターの下敷きになってしまう。
 自分は足を怪我しているし、周りに人はいない。
 そこに、甥っ子がいた!
 語り手である大人の憤りも判るし、
 超能力を持つ甥っ子のとまどいもよくわかる。
 超能力ものとして、痛々しい。
・「グランダー」
 嫉妬深い夫。
 妻と仲直りするためにキャンプに来るが、再び喧嘩になってしまい、
 彼女は離婚すると言い出す。
 彼は途中で老人から聞いたグランダーという幻の魚のことを思い出す。
 それを釣り上げ、ノコギリのような鱗を頭から尾まで3回撫でれば、
 女性を心から信じて、愛せるようになるというのだ。
 南部のホラ話系なんだけど、ちょっと一味違う感じ。
・「ページをめくれば」
 魔法のような授業をしてくれた先生。
 しかし、その先生がいなくなった途端、
 先生のことも、教えも、自分を除いてみんな忘れてしまう。
 ハッピーエンドじゃない話はいくつかあるけど、これが一番後味が苦い。
 魔法を覚えている主人公は、死ぬまで縛られ続けるわけ?
 そもそも、この先生の授業は素晴らしいの?
 他の生徒も、結局、いびつな形で人生に魔法が刷り込まれちゃってるわけだし……
・「鏡にて見るごとく――おぼろげに」
 二焦点眼鏡をかけ始めた主婦。
 突然、実物と重なって、部屋の中にサボテンが見える。
 それは徐々に広がり、動物や人間までもが現れる。
 どうやら、100年ほど前の風景が見えているらしい。
 ある日、葬式の風景が見え、その埋葬される女性について興味を抱く。
 タイムスリップものの変化球かな。
 なんか、こういう話読んだことある気がするんだけど、なんだったかなぁ〜


こう見ると、「信じること」がテーマになっている作品がほとんど。
でも、信じたからと言って、必ず幸せになれるわけじゃないのが苦い。
『信じる子』のラストは、信じると言うより悲痛な願望だし、
『ページをめくれば』の主人公も、人生を縛られ続ける。
幸せとは思えないよなぁ。


解説にもあったけど、『なんでも箱』は他のアンソロジーでも読めるので、やはり入らなかった。
以前出た短篇集『悪魔はぼくのペット』と被っているのは4作(「光るもの」「小委員会」「グランダー」「ページをめくれば」)。
今まで、他の1冊とこんなに被ることはなかっただけに意外。
まぁ、今じゃ売ってないから、いいセレクションなのかな。
〈ピーブル〉シリーズも読もうかしら。


今までに出た奇想コレクションの中では、かなり粒ぞろいだと思う。
表紙はあまり好きじゃないけど(笑)